痛みのシグナルを強めるタンパク質を発見:医療技術ニュース
大阪大学は、脊髄内の介在神経からネトリン4というタンパク質が分泌され、痛みを増幅させることを発見した。既存の薬では治療しきれない慢性疼痛に対する治療薬の開発につながることが期待される。
大阪大学は2016年11月18日、脊髄内の介在神経からネトリン4というタンパク質が分泌され、痛みを増幅させることを見いだしたと発表した。同大学大学院医学系研究科の山下俊英教授らの研究グループによるもので、成果は同日、米科学誌「The Journal of Experimental Medicine」オンライン版で公開された。
脊髄後角は、痛みシグナルの伝達や中継に関わる重要な部位だ。神経の痛みである神経障害性疼痛は、主にこの部位の神経が異常に興奮することで起こると考えられている。同研究グループは、脊髄後角の介在神経に着目し、これまで不明だった痛みの増幅に関わる分子や、そのメカニズムを調べた。
まず、ラットやヒトの脊髄後角の介在神経において、分泌性のタンパク質であるネトリン4が特異的に発現していることを見いだした。次に、ネトリン4遺伝子を欠損するラットを用いて、痛みの反応を観察した。通常のラットでは、末梢神経を障害すると、痛覚過敏(普通では痛みを引き起こさない刺激によって痛みを生じる)の症状が起こる。しかし、ネトリン4を欠損したラットでは、その症状が起こらなかった。
また、末梢神経が障害され痛覚過敏の症状があるラット(神経障害性疼痛モデルラット)に、ネトリン4の機能を抑制する抗体やネトリン4の発現を抑える核酸(siRNA)を投与すると、持続的かつ強い鎮痛効果が見られた。逆に、ネトリン4を脊髄内に投与すると、痛覚過敏が起こった。これとは異なる痛みである炎症性疼痛を起こしたラットでも、同様の鎮痛効果が観察された。これらのことから、ネトリン4は痛みの発症の原因となる物質だと分かった。
さらに、ネトリン4によって痛みが増幅するメカニズムも明らかにした。脊髄後角の介在神経から分泌されるネトリン4が、痛みを伝える二次痛覚神経に発現するUnc5B受容体に結合することで、この神経に神経興奮を引き起こし、神経障害性疼痛を発症させていた。
慢性疼痛の患者数は、国内だけで推定2000万人と多いが、現行の治療に満足している患者は4分の1程度しかいないという。慢性的な痛みの中でも、神経障害性疼痛は、重症かつ難治性とされている。この研究成果から、既存の薬では治療しきれない慢性疼痛に対して鎮痛効果が高く、かつ副作用の少ない治療薬の開発が期待される。
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