阪大、初の日本一! ほんまに車が好っきやねん:第8回 全日本 学生フォーミュラ大会 レポート(4)(1/3 ページ)
最終回は、阪大が優勝を勝ち取った真の理由に迫っていく。「車が好き!」という気持ちが、彼らを強くした!
大阪大学の学生フォーミュラチーム「OFRAC」は全日本 学生フォーミュラ大会の第1回から参加を続けているが、今年の第8回大会でついに初優勝を勝ち取った。大阪大学として初優勝というだけでなく、関西勢初優勝という快挙である。
チームのメンバーは総勢23名。エンジン+電装(パワートレイン)・サスペンション・ボディという3つのグループにそれぞれ4名ずつ分かれ、各グループにはグループリーダーが存在する。大阪大学のフォーミュラチームといえばライムグリーンのマシンというほど定着しているカラーリングは、当初よりエンジン提供を受けているカワサキ(川崎重工業)のイメージカラーである。
大阪大学と聞くと関西随一の有名校であることから、これまでも相応に上位に食い込み、なるべくして優勝したのだろうと筆者は思っていた。しかし直接の取材を通して、今回の優勝までの道のりが決して順風満帆ではなかったことを思い知らされた。
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あえて、パワーが低いエンジンを
大阪大学が学生フォーミュラ第1回大会に参戦していた当時、つまりチーム発足当初のマシンにはバギー用のV2エンジンが採用されていた。
ほとんどのチームがスポーツバイクに搭載されている高性能エンジンを採用していたにもかかわらず、大阪大学はバギー用エンジンという出力が低いエンジンを採用したのである。
その理由を2010年チームリーダーである奥西 晋一さんがこう語ってくれた。「大会で走行するコースは一般的なサーキットとは違って狭いレイアウトですので、高出力エンジンで神経を擦り減らしながら走行するよりも、あえて出力が低いエンジンで、アクセルを思い切り踏み込める方が、タイムが出ると考えていたのです」。
このコメントを聞いて、皆さんはどのように感じるだろうか。
筆者は二輪でのレースを幾度か経験しているが、奥西さんのコメントには非常に納得した。
タイムアップにはエンジン出力を向上させることが最短距離だと思ってしまうのは普通である。かくいう筆者もレースを始めた当初はそのように考え、必死にエンジンチューニングに時間を費やした経験がある。しかしパワーが上がった状態でサーキットを走行してみると、アクセルを少しでもラフに開けるとすぐにタイヤが滑り、二輪の場合は転倒しやすい仕様になっているのである。もちろん四輪でもタイヤが滑ることは「駆動力が路面に伝わらない」「イメージした走行ラインから外れてしまう」「スピン(コースアウト)」といったタイムロスに直結してしまう。つまりタイムロスをなくすためにアクセル操作に大半の神経が集中してしまい、結果としてタイムアップにつながらないことが多いのである。
ただしパワーアップしたエンジンに合わせた車両セッティングが行えるノウハウが身に付くと、エンジン出力の向上によってタイムアップに直結することはいうまでもない。
出力が低いエンジンということを十分に承知した状態で参戦を続けた大阪大学は、その間に、
「エンジン出力に頼らないタイムアップのノウハウ」
を着々と蓄積していったのである。
セッティングノウハウとエンジン
「出力が高いエンジンに変えたらもっと楽にタイムアップできるのでは?」という意見は常にあったということだが、2008年にカワサキより600ccバイク「ZX−6R」のエンジンを提供してもらうまで「車両セッティングの追究」をしていた。
ただし当時から結果が出ないことをよしとし、悔しくなかった、ということではない。いまから振り返ってみると、結果的に当時の試行錯誤が揺るぎない基盤となって今回の優勝につながったと考えるのが自然であろう。
車両セッティングというと非常に曖昧(あいまい)な表現になるが、最も容易にイメージできるのはサスペンションセッティングではないだろうか。
サスペンションセッティングは車の中で最も奥が深いといわれている分野であり、正解がないとさえいわれる。もちろんある程度のセオリーというのは存在しているが、最終的な考え方やセッティングの方向性はメカニックによって全然意見が異なる分野である。もちろんドライバーによってもセッティングの好みは大きく変化し、そのときの走行条件や車両の状態によってもセッティングは変わってくる。
つまりノウハウがなければ、まったくタイムアップにつながらない車両になってしまうし、逆にエンジン出力がほかのチームに比べて劣っていたとしてもセッティング能力1つで互角に渡り合えるほどの車両へと進化させることができる分野でもある。
大阪大学は年々改良を加え、スポーツバイクのエンジンが主流となっているほかのチームを相手に、V2エンジン仕様で13位という結果まで上り詰めた。しかしこの時点でエンジン出力の大きな差を埋める限界を感じたという。
ただ逆にV2エンジンでここまでやれるという実績・ノウハウから、
「スポーツバイクのエンジンを搭載すれば、すぐに上位に行ける!」
という確信をすでに持っていたのである。
エンジン出力に頼らずに車両セッティングを追究してきたノウハウは、カワサキZX−6Rのエンジンを初搭載した2008年にいきなり6位入賞という結果を残した。
浪速Xとエンジン改良
新エンジンの採用となると、フレームからサスペンションに至るまですべてを新たな設計にする必要があり、セッティングデータ収集もゼロからのスタートとなる。そこで2008年は熟成期ととらえ、2009年に結果が出るように準備を進めていたという。
そして2009年は、4位という結果に終わった。十分に優勝争いに加わるだけの実力はあったが、それでもまだ“何か”が足りなかった。
大阪大学フォーミュラチームが発足当初から最も重視しているのは走行安定性、つまりドライバーが安心してアクセルを踏み込める車両作りである。もちろんこの考えはサスペンションセッティングもその1つであるが、車全体として見たときに走行安定性にかかわる重要な部分というのはほかにもある。
例えば各チームが率先して行っている軽量化がその1つであろう。軽量化には高価なカーボン素材やアルミなどを使用するのが一般的だが、直接コストとして跳ね返ってくるために安易に多用することはできない。しかしコストを掛けないアイデアによる軽量化は走行安定性に大きく影響するほどの効果は見込みにくく、基本的にはコストに比例するといっても過言ではない。また強度や加工性などを考えれば、ある程度の限界も見えてくる。
今年の優勝車両である「浪速X(ナニワテン)」は、いままでほとんど大阪大学が着手しなかった“エンジン改良”を行った。
エンジン改良といっても、出力向上を目的にした改良ではなく走行安定性のための改良であり、その内容は走行安定性にかかわる重要な要素、「低重心化」を実現するためである。低重心化を実現するためには、エンジンの搭載位置を可能な限り下げることになるが、もちろんどのチームも当たり前のように行っているノウハウといえる。大阪大学も例外ではなかった。
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