HILSとプラントモデル(その1):いまさら聞けないHILS入門(5)(3/3 ページ)
車載システムの開発に不可欠なものとなっているHILSについて解説する本連載。今回は、実世界の電気信号やHILS内部のデジタル信号と関連して動作する「プラントモデル」がどのようなものであるかについて考えてみましょう。
エンジン回転センサー
エンジン回転センサー信号発生回路は、周波数をインプットすることにより、ECUが入力可能なパルスを発生します(連載第4回の3ページ)。
パルス発生回路に入力する周波数は、プラントモデルのエンジン回転数に定数を掛けることによって得られます。回転センサー歯車が、クランク軸に取り付けられている場合の周波数は、次式の値となります。
センサー周波数(Hz)=センサー歯車の歯数×エンジン回転数(rpm)/60
スロットルポジションセンサー
スロットルポジションセンサー信号発生回路は、スロットル開度に相当する電圧値をDAコンバータにより発生します(連載第3回の4ページ)。
図6のように、スロットルセンサー抵抗がセンサー開度に比例するなら、センサーが発生する電圧は、次式の通りプラントモデルのスロットルバルブ開度に定数を掛けることによって得られます。
センサー電圧(V)=センサー開度(%)/100×(全開電圧−全閉電圧)+全閉電圧
水温センサー
エンジン冷却水温信号発生回路は、実機の水温センサー回路に対応して、水温に相当する電圧をD-Aコンバータによって発生します(連載第3回の4ページ)。
エンジン水温は、エンジンの運転状態に応じて変化しますので、シミュレーションすることは不可能ではありません。しかし、ECUによる制御の中で、水温は始動制御や故障判定などの制御条件として使われますが、エンジン回転数制御のようにフィードバック制御ループの中の状態値として扱われることはありません。また、加速度などのフィードバックループの物理量と比較すると温度の変化は、緩慢です。
そこで、本HILSでは、実際の伝熱モデルとは大きく異なりますが、温度変化を発生させる機能を極力簡単に実現することとし、エンジン出力に比例する熱量が、エンジブロックという熱容量に作用するモデルとします。
オイル圧スイッチ
オイル圧スイッチ信号発生回路は、オイル圧スイッチ信号回路に対応して、オンオフ出力を発生します(連載第3回の3ページ)。
スイッチの機能は、エンジンが回転しているとき(オイルポンプが作動しているとき)に、オイル圧スイッチがオンして0Vを出力し、エンジンが停止していたり潤滑油系統が故障して圧力がなかったりするときには、スイッチがオフして5Vを出力します。
まとめ
HILSのプラントモデルでは、ここまで紹介した通り、ECUとやりとりする電気的な信号によって動作すると同時に、システムの物理的な仕組みに沿って動作するモデルを作ることが必要です。使用するコンピュータや対象とする物理現象により、モデルはいろいろな段階の精密さを実現可能です。ここでも、HILSの使い方とテスト目的を熟慮して、モデル仕様を決定することが必須です。
HILSでは、設計仕様が入手できなかったり、プラントの機能を実現したときの計算時間が長くなりすぎたりして、物理モデルの作成が難しい場合があります。そのような場合の代替手段として、実験データを適用する統計モデルと呼ぶプラントモデルの作成手法があります。次回は、この統計モデルについて考えます。
筆者プロフィール
高尾 英次郎(たかお えいじろう) 「HILSとTestの案内人」
1950年生まれ。岐阜大学機械工学科卒業。三菱重工で大型船のエンジン・推進装置などの修繕業務を担当の後、三菱自動車(現三菱ふそうトラック・バス)に転籍。エンジンの燃費向上・排出ガス低減研究、車両の燃費向上研究を10年余および電子実験、電子設計などを20年余担当。ITKエンジニアリングジャパンを経て、現在はHILSとHILS Testにフォーカスしたコンサルティングを行っている。
HILSとの関わりは、バス用の機械式自動トランスミッション開発中に、ECUのソフト検証用として1990年にMS-DOS PCを使ってHILSをゼロから自主開発して以来のもの。
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