HILSの仕組み:いまさら聞けないHILS入門(2)(1/4 ページ)
車載システムの開発に不可欠なものとなっているHILSについて解説する本連載。今回は、HILSがどのような仕組みで動作しているかについて解説します。また、さまざまな車両の制御システムごとにいかなるHILSシステムがあるのかについても見て行きます。
HILSはWindows PCで動くのか
HILSはどのような仕組みで動いているでしょうか。HILSのポイントは、バーチャル世界のプラントモデルと実信号とのインタフェース、およびプラントモデルのリアルタイムシミュレーションです。Windows PCだけでこれを実現することができるでしょうか。答えは「No」です。
PCで動作するソフトはいろいろあります。例えば、私はこの記事をワープロソフトで作成していますし、読者の皆さまにこの記事を読んでいただいているのはWebブラウザでしょう。それらは、WindowsなどのPC OS上で動いています。そこでは、キーボードやマウスの操作、画面表示、音声出力、印刷出力や、ハードディスクドライブなどの記憶装置の読み書き、コンピュータの心臓部であるCPUが行う全てのデータ処理は、OSという基本ソフトを介して行われます。情報のやりとりは全てOSを介して行われるので、ユーザーである私たちはもちろん、PCソフト自体も、どの仕事がいつ行われたかを知りません。
一方HILSは、連載第1回の図2(リアルタイムシミュレーション)に示した通り、入力、プラントモデルの計算、出力をサイクルタイムごとに実行します。リアルタイムに実行するために、リアルタイムOS(RTOS)を搭載したコンピュータを使うのが一般的です。このコンピュータのことをHILSコンピュータと呼ぶことにします。HILSコンピュータの他に、ホストコンピュータと呼ぶもう1台のPCを使用して、プラントモデルやユーザーインタフェース(UI)の作成、プラントモデルと入出力インタフェースのシステム構成設定などのHILS開発作業を行い、開発作業完了後はUIを使ってHILSを操作します。ホストコンピュータ上のHILSソフトは、PC OS上で動きます。HILSコンピュータは、ホストコンピュータとLANケーブルなどで接続してホストコンピュータから遠隔操作します(図1)。
HILSを作るためのソフトウェア
HILSのプラントモデルを入手するには、プラントモデル作成用のソフトを購入してプラントモデルを自作する、自作の仕様書に基づいてプラントモデル作成を外注する、既成のプラントモデルソフトを購入するといった方法があります。プラントモデルをHILSシステムで動かすためには、HILSコンピュータのRTOS上でプラントモデルと入出力インタフェースを動作させるためのHILS環境ソフトが必要です。これらのソフトの内、比較的よく使われているソフトを表1に示します。
HILSメーカーは、HILSコンピュータに入出力ユニットを組み込み、HILS開発用やHILS操作用のHILSソフトとエンジン/駆動系/車両運動などのプラントモデルをセットにして販売しています。購入したHILSをテストで使えるようにするには、プラントモデルや入出力インタフェースのパラメータを、テスト対象のシステム仕様とテスト目的に沿ってカスタマイズする必要があります。エンジンHILSなどでパッケージになっているものでも、エンジンに備わっている全ての入出力に対応させるためにカスタマイズは欠かせません。全く新しいコンセプトの制御システムを開発する場合などは、プラントモデルをゼロから作成することになるかもしれません。
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