HILSとセンサー:いまさら聞けないHILS入門(3)(3/4 ページ)
車載システムの開発に不可欠なものとなっているHILSについて解説する本連載。今回は、HILSの入出力インタフェースのポイントとなるセンサーの構造と機能について分析し、HILSの信号発生回路仕様について考えます。
オイル圧スイッチ
オイル圧スイッチは、エンジンの安全性を確保する上で重要な役割を担っているスイッチ式のセンサです。高い信頼性を得るため行き戻りの配線をともにECUと接続する2線式の回路としています。
HILS信号発生回路は、メカ接点を重視する場合にはメカリレーを使った図4の回路Aが考えられます。一方、必要最小限の回路は、図4と回路Bが考えられます。回路Bは、1線式となり、ECUのセンサーGNDの端子は、接続しない状態となります。HILS回路は、このように配線が実機と異なる場合もあります。
回転センサー
回転センサーの多くは、図1のような電磁誘導式センサーです。他にホール素子や光学素子を用いたものなどがあります。電磁誘導式センサーは、対面する歯車の歯がセンサーコイルの前を通過するごとにひと山の波形が発生し、次のような特徴を有します(図5参照)。
(1)センサー波形の周波数は、クランク軸に取り付けた歯車の歯数に比例する次式の値となる
周波数(Hz)=回転数(rpm)÷60×歯数
(2)波形は、正弦波やその変形となる(ホール素子や光学式のものは、矩形波の波形となる)
(3)エンジンが高回転数の場合は、波高が高くなる
(4)クランキング中など極低回転の場合は、波高が極めて小さくなる。また波形が、正弦波と異なる場合がある(歯車の歯数や形状の影響も受ける)
(5)回転センサーと歯車のすき間の大小により、波高が変化する
(6)実センサー波形は、図5(b)のようにノイズを伴うことがある
ただし通常(4)と(6)については、ECU内の波形整形回路で影響を受けないように作られています。また(5)の影響が起きないように、歯車とセンサーは精度よく組み立てられています。そこで、(1)と(2)、(3)にフォーカスしてHILSの回転信号発生回路の要件を考えます。
(A)周波数は、クランク軸の回転角速度に比例して連続的に変化するとともに、エンジンのクランキング回転数から最高回転数までの範囲を網羅すること(歯数60枚の場合、100rpm時は100Hz、6000rpm時は6000Hzとなる)
(B)ECUの波形整形回路の閾値に対して余裕をもった信号電圧を発生すること
(C)実センサーと同様にGNDや電源から浮いた状態の信号を出力すること
これらの要件を満足する回転センサー信号発生回路の一例は、図6の回路Aの矩形波パルス出力回路となります。一方、波形整形回路や関連するソフトウェアの機能がテスト対象に含まれる場合には要件(D)が追加され、図6(B)の様な回路が考えられます。
(D)回転数やセンサーと歯車との隙間に応じて、出力の波高や波形が変化すること
重複しますが、HILSの信号発生回路は、実機と同じ回路を原則とすべきです。しかし、ECUの仕様やテスト目的を考慮して、可能な範囲でシンプルな回路を選定することが重要です。ポイントは、実現したいテスト条件をHILS上に作り出せることです。シンプルな回路を適用できれば、HILSのコストを下げることができます。
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