JC08モード燃費ってどうやって測定するの? カタログ値と実燃費が違う理由は:いまさら聞けないクルマのあの話(1)(4/4 ページ)
聞いたことはあるけれど、正確に知っているかといわれると自信がない……。クルマに関する“いまさら聞けないあの話”を解説していきます。第1回は、三菱自動車が発端となって世間を騒がせたのが記憶に新しい「燃費の話」です。
実燃費とカタログ燃費を比較するのは筋違い
JC08モードについての説明はこの程度にして、あらためて身近な部分に戻ってみましょう。
実は市場から今でも全く収まらないのが
「カタログに書いてある燃費と実燃費が違う!」
という訴えです。
ここまで私の説明を読んできてくださった皆さまであればご理解いただけると思いますが、カタログ燃費を測定する際には燃費に大きく影響する電気負荷と道路環境、さらに言えば運転方法(アクセルの踏み方、減速の仕方)を一切加味していません。
というか今のところ、こうした要素を不公平感なく反映させる算出方法が適用されていません。
つまり「実燃費=JC08モード燃費」になるはずがないのです。何度も言いますが「不公平感を排除した厳密な条件下で他車と性能を比較するための数値」がカタログ燃費です。
ちなみにこのような訴えは、交通渋滞がほとんど無い場合や、信号が少ない地域では非常に少ないと私は認識しています。それもそのはず、JC08モードの測定よりも実際に運転する環境で発進/停止の回数が少なければ燃費が良くなってしまうのです。
かくいう私も、北海道の郊外を走行した時や東北〜関東圏まで走行した際の実燃費は、特に意識して運転したわけではありませんが、カタログ値を上回った結果が出ました。時速30kmといった極端に遅い速度で走行した訳ではなく、道路の流れに沿って走行をした結果です。
また、
「カタログに書かれている燃費なんて出る訳がない!」
といった極端な訴えもまれに耳にしますが、JC08モードに沿った走行を行えば必ず出ます。国土交通省立会いの元で測定しているのに、仮に出なければ何かおかしなことになりますね。
誰が運転しても再現できる性能を……という理想論としては存在しても、絶対に実現しないものです。
最近話題になっている自動運転技術が幅広く採用されたとしても、使用環境によってはカタログ燃費で走行するのは非常に厳しいと思います。それほどまでに、車両性能以外で燃費に影響する要因が多いということです。
今後のカタログ燃費の在り方とは
とはいえ、カタログ燃費の理想は「実燃費との乖離を少しでも縮める」ということに尽きますので、今でも新しい走行パターンでの測定について協議が重ねられています。
既に、各国で異なる燃費表記の問題を解決するべく、「WLTP(World Harmonized Light Duty Test Procedure)」という世界基準への移行が検討されていますが、日本市場における実燃費との乖離が埋まるかどうかは実際の測定値を見てみないと分かりません。あまり変わらない可能性が高そうですが……。
最低限覚えておいていただきたいのは、カタログ値は条件さえそろえば必ず出ますが、実燃費と比較するのは目的が異なるということです。カタログ燃費はあくまでも他車との比較のための数値であり、実燃費は平均すると2〜3割ほどカタログ燃費より悪くなるという認識を持っておくことが大切ですね。
著者はさまざまな立場の方からの意見を耳にしていますが、将来適用される新しい走行パターンでの燃費測定によって、全ての立場の方が今以上に笑顔になれることを切に願っています。
筆者プロフィール
カーライフプロデューサー テル
1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車両検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にしたメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により、自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。
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