アルプス電気はIoTで新規顧客と向き合うため“全てを捨てた”:製造業IoT(3/3 ページ)
アルプス電気の「センサーネットワークモジュール」は、4種類のセンサーを搭載しBluetoothでの通信に対応した新製品だ。センサーと通信モジュールという既存事業の組み合わせから、新規事業を立ち上げることを狙った。展示会で披露すると300件を超える引き合いがあったが、即座にビジネスに直結とは行かなかった。そこから引き合いをモノにするまでにはどのような苦労があったのか。
モノを作ってみないと反応は引き出せない
実際に具体的な話を聞いて明確になったことも多かった。「ヘルメットがセンサーとして適していることが分かった。常に身につける個人専用の道具だからだ。休憩中などはあごのベルトを手に提げて、ヘルメットが逆さになった状態で持ち歩くということも聞いた。ヘルメットが横を向いていれば持ち主が何らかの理由で倒れている可能性が高いと推定できる。これにより、労災の早期検知が可能になる。倒れる前からデータが取得できれば、危険を予知したり、タイミングよく休憩を勧めたりといったことが実現できる」(稲垣氏)。
稲垣氏はこのような流れを振り返り、「まずはモノを作ってみないと反応は引き出せない」と説明する。「ヘルメットにセンサーを付ければ、できることややりたいことはどんどん出てくる。しかし、ヘルメットを身につける業種の方々は、ヘルメットにセンサーが付けられるのかどうか分からない。センサーノードネットワークはわれわれにとっては普通の技術を盛り込んだ普通の製品だ。われわれにとっての常識を知らない業界の人はたくさんいるということに気付かされた」(同氏)。
センサーノードネットワークの用途は、農業向けの水位検知から、サーバールームの冷房効率化まで、さまざまに広がっている。その一方で、事業として安定させていくための課題も見えてきた。
「遠隔自動制御から予測保守や最適配置に至った時、センサーの個数の最適化というプロセスが出てくる。無駄なセンサーが見えてくるが、無駄でもデータがあった方がいい時もある。機能拡張が一番難しい。機能をアップデートできるのは当たり前になっているが、アップデートが機能や使い方に影響を与えてはいけない。センサーの種類を増やしたら何ができるようになるか、顧客の要望にどこまでこたえられるかというのも今後掘り下げていく。原価を下げるためには大きな案件の受注も必要だ」(同氏)。
アルプス電気だけではカバーしきれない部分もあり、パートナーが不可欠となっている。「オープンイノベーションというとかっこいい感じになるが、われわれでは足りない部分を何としてもカバーしないとビジネスにならない。ならば一緒にやってもらおう、という考えだ。われわれが作ったIoTノードは、ゲートウェイにつなぐところまで必ずやる。実際のアプリケーションとして落とし込むにはサーバが不可欠だ。ここで提携しているのがIBMだ」(同氏)。
センサーノードネットワークを使ったIoTは、アルプス電気にとって走り始めたばかりの新規事業だ。これまでのビジネスモデルから離れることで、事業として独り立ちすることが可能になった。今後も協業で自社やパートナーの強みを相互に発揮しながら、ビジネスチャンスを探索していく。
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