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アルプス電気はIoTで新規顧客と向き合うため“全てを捨てた”製造業IoT(2/3 ページ)

アルプス電気の「センサーネットワークモジュール」は、4種類のセンサーを搭載しBluetoothでの通信に対応した新製品だ。センサーと通信モジュールという既存事業の組み合わせから、新規事業を立ち上げることを狙った。展示会で披露すると300件を超える引き合いがあったが、即座にビジネスに直結とは行かなかった。そこから引き合いをモノにするまでにはどのような苦労があったのか。

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異業種の新規顧客にどう対応していくか

 事業化できない要因を洗い出しながら、産業構造が変化しつつあるのではないかという結論が出た。例えば、異業種の新規顧客が多いということは、センサーの用途が拡大しているということになる。また、完成品に近い状態での納入が求められるということは、仕事のレイヤーが一段上に上がったということだ。また、需要の規模が小さいのは“お試し段階”のためで、最終的な市場規模が小さいとは限らない。また、かつての得意先がいないということは、かつての得意先に対するやり方から変えていかなければならないということでもある。

ビジネスにつながらない要因変化に対応できないと何が起きるのか ビジネスにつながらない要因(左)。変化に対応できないと何が起きるのか(右) (クリックして拡大) 出典:アルプス電気

 「われわれは釣りたい魚がいるのに大きすぎる針を仕掛けていた。状況に合わせて網も投げなければ、衰退しかない」(稲垣氏)。何を作れば“魚が釣れる”のか、引き合いを整理して絞り込むことにした。

絞り込むのは困難。ならば最大公約数の仕様を用意しよう

 実用化時期の早さやロットの大きさを基準に用途ごとに引き合いを整理すると、さまざまな分野に分散していた。ICT、保安やセキュリティ、小売、輸送、工業、ヘルスケア、コンシューマー、エネルギーなど業種がばらついており、実証実験の域を出ないものから1年以内の事業化が可能なものまで分散していた。

 絞り込むのは困難だと判断し、最大公約数的な標準仕様を開発することに決めた。「今は過渡期で皆が様子見の段階にあると考えた。だから仕様がばらついている。それなら75%の要求をカバーするような仕様をまずは出して、反応を見てみようということになった」(稲垣氏)。

最大公約数の仕様で反応を見る
最大公約数の仕様で反応を見る (クリックして拡大) 出典:アルプス電気

社内の反応、市場からは予想以上の手応え

 最大公約数の仕様を出す試みに対し、社内からは疑問の声が上がった。「これまでのやり方と全く違うからだ。顧客の要求にできる限り近い仕様に作り込み、変動価格で受注生産していたが、今回はどの引き合いにも100%は対応しない仕様になった。固定価格の見込み生産で、不特定多数をターゲットとするので、与信は大丈夫なのか、海外も含めてどう販売するのか、という反響があった」(稲垣氏)。

社内からは疑問の声が上がったが……
社内からは疑問の声が上がったが…… (クリックして拡大) 出典:アルプス電気

 しかし、センサーノードネットワークは事業可能性を見いだすための事業開発キットと位置付けて、「走りながらやり方を決めていくことにした」(同氏)。

 センサーノードネットワークは現在、約500個を出荷し、150の企業や団体で使われているという。「ヘルスケアや物流で使われるのが多いと予想していたが、工場などでインダストリー4.0的に使っていただく例が多い。そういった需要に対しては現在の仕様では心もとないので、新しい規格を検討している」(同氏)。

 稲垣氏は、センサーノードネットワークを売るだけが目的ではないと説明する。IoTに対して、電子部品メーカーとしてどのように持続可能なビジネスモデルを作るかが課題だったからだ。

 CEATEC JAPAN 2015にセンサーノードネットワークを出展する際には、用途の一例としてヘルメットに取り付けた。「例えば、日射量から熱中症にかかる危険度を測れるのではないかと考えた。加速度センサーで運動量も加味することができる。加速度で落下や転倒などの動きも分かる。確信があってIoTヘルメットを試作したわけではないが、出展して見るとゼネコンや工場を運営する企業から具体的な相談をいただけた」(同氏)。

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