空気清浄機が蚊を取る? シャープが狙う新市場:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(6)(7/7 ページ)
シャープが2016年4月に発売した「蚊取空清」は、蚊取り機能を持つ「世界初」の空気清浄機である。なぜ空気清浄機に蚊取り機能を持たせたのか、開発にはどのような苦労があったのか。小寺信良氏が探る。
鴻海会長のテリー・ゴウ氏もお気に入り
―― 蚊の問題って、何もASEANと日本に限った話じゃないと思うんですよね。さらに他国への展開というのもありうるのではないでしょうか。
冨田 2016年に入ってから、ブラジルのジカ熱の問題もあって、今結構いろんな国から問い合わせがくるんですよ。特に米国ですよね。あまりにも問い合わせが多いので、これから具体的な検討に入るところです。
世界中で一番蚊の問題が大きいのはアフリカなんですね。ところがアフリカって空気清浄機が使える環境じゃないんです。エアコンもまだ普及してないようなところも多いので、窓が閉められない。そういうところはちょっと難しいだろうなと。それはホントに蚊の専門のグッズの方がいいんじゃないかと思ってます。
実は社内でも、蚊取り専用機を出せ、空気清浄機能がなければもっと安くできるだろうという声もありますが、それはわれわれのビジネスではないです。基本は空気清浄機ですので、それをビジネス展開できる入り口として、蚊の問題がある地域に持っていきたいと思っています。
―― 最後に今後の展開をお伺いしたいんですが。現在1号機を出されまして、現状の課題というのは何かありますか。
冨田 まずASEANからは、もう少し値段の安いのを出して欲しいというリクエストがあります。そこで2016年夏あたりに、値段が3分の2強ぐらいの廉価版を出す予定です。
―― それはどこがコストダウンしてるんでしょう?
冨田 風量を下げて、ちょっとサイズを小さくしてます。ですが寝室とかでしたら、十分使えます。それ以外ですと、中国でもちょうど販売をスタートしたところです。後は台湾ですね。
台湾ではやる気なかったみたいですけど、この「蚊取空清」がテリーさん(テリー・ゴウ氏:シャープの親会社となった鴻海精密工業の会長)のお気に入りなので、販売することになりそうです。
日本において蚊の問題は、地域性が非常に強いと思われる。都心の高層マンションではそもそも蚊などいない一方で、一軒家に住んでいると首都圏でも蚊に悩まされる夜もある。地方に行けばなおさらだろう。
そろそろ日本でも本格的な蚊取りシーズンを迎えるわけだが、購入した人々からはどのような成果が上がってくるだろうか。のどが弱い筆者にとって、蚊取り線香はあまり使いたくないので、こういう商品が登場するのをずっと待っていた。
そもそも空気清浄機は、ソリューション合体型の傾向がある。掃除したり消臭したり、加湿器と合体したり除湿器と合体しているわけだが、それらは基本的に空気のコンディションを整えるということに特化してきた。一方で、蚊取空清における蚊の対策というのは、空気へのニーズとは別のニーズをくっつけた、初めての試みといえる。
日本では既に空気清浄機はある程度の知名度を持っており、その年の空気の問題の発生に市場が左右される状況にある。一方、他国では、まだまだ空気清浄機自体の知名度もニーズも低い。今後空気清浄機がさまざまな問題を解決する複合製品化することで、日本人が気が付かない間に世界で普及するというシナリオが描けるのかもしれない。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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