IoTセンサープラットフォーム「M2.COM」の目指すビジョンと懸念点:IoT観測所(22)(3/3 ページ)
IoTサービスの開発速度を妨げる要因の1つに、センサーやセンサーノードモジュールの規格不在、クラウド接続への包括的なサポート不足が挙げられる。この解消を狙うのが、Advantechらが中心となる「M2.COM」だ。その概要と現在の懸念点を確認する。
IIoT規格としての飛躍は?
これがIIoTの規格として大きく伸びるのか?と問われる場合、不確定要素が幾つか残っている。
まずはM.2モジュールを利用する事の可否である。M2.COMではあくまでIIoTの、特にセンサーノードに特化する形で標準化を行ったので、必要なのはハイパワーなMPUではなくMCUで十分であり、であればM.2の2230モジュールがあれば十分という判断だったと思われる。
確かにM.2モジュールそのものや、M.2コネクターは広く普及した事もあり、部品コストそのものはかなり安い。また2230だと両面実装が許されているから、部品実装面積は両面合わせて10平方cm以上あり、それなりの回路は一応可能だとは思う。
ただ、「コントローラーにある程度高度なフィルタリングをやらせたい(Cortex-M7クラスの処理性能が欲しい)」や、「ある程度のストレージ機能が欲しい(一応SDIOの配線は出ているが、もっと高速なものが欲しいとか)」といった要望が出た場合、M.2モジュールで乗り切るかどうか、という若干の疑念がある。
それと、M2.COMはWISE-PaaS/RMMを前提にしている訳だが、「他のサービスとの親和性はどうか?」という点も気になる部分だ。
例えばmbed OSはmbed Device Server経由でさまざまなクラウドサービスを利用できる様に配慮されている訳だが、こうしたものを利用する場合にIoT Agentが邪魔をしないか? あるいはSensor Hub SoftwareのソフトウェアがIoTエージェントなしでも利用できるのか?(つまり、mbed Device Serverなどにつなぐ場合でも、Sensor Hub Software経由でM2.COM Sensor I/O Interfaceを利用できるのか?)など、現時点では見えていない部分が散見される。
公開されているレイヤー図(Photo03)を見る限り大丈夫そうではあるのだが。もしこれがWISE-PaaS/RMMを利用しないと使えない、という事になるとオープンスタンダードをうたいながら、実際には限りなくプロプライエタリという事になってしまう(一部の製品についてはSDKを利用すれば可能という事は確認が取れているが、これがM2.COM全てに適用できるかは不明)。
加えて、情報公開が遅いのも気になる部分だ。今の所公開されている情報は確認できた限り「M2.COM Specification」と「M2.COM Design Guide」のみである。これらの資料を見て頂くと分かるが、どちらも機械/電気的な仕様をまとめているだけで、それ以上の情報がない。
ADCを利用したいと思った場合はADC0〜ADC5の6bitの信号線が利用できる事と、それが0〜3.3Vの範囲であることは規定されているが、ADCの解像度は6bitに限られるのか、それとも複数サイクル使えば12bit/18bit/……と変更できるのか。あるいはサンプリング速度はどの位か、レファレンスクロックはどう定めるのか、etc……などが一切不明なので、現状では海のモノとも山のモノとも分からない状況である。このあたりがキチンと公開されれば良いのだが、もしこれらがモジュール依存であるとしたら、標準化の意義が半減する事になりかねない。
そんな訳で、現状はまだM2.COMに関して判断を下すのに十分な情報があるとは言いがたい。ただ、「WISE-PaaS/RMMをベースにセンサーネットワークを構築したい」というユーザーニーズを迅速に満たすためのソリューションとしては間違いなく有用だろう。問題はM2.COM側が「M2.COMをベースにセンサーネットワークを構築する際にWISE-PaaS/RMMが有用」というシナリオを描いている事だ。こちらのシナリオを現実のものとするためには、対応製品の前にもっと情報が出てこない限り難しいだろう。
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