IoTセンサープラットフォーム「M2.COM」の目指すビジョンと懸念点:IoT観測所(22)(1/3 ページ)
IoTサービスの開発速度を妨げる要因の1つに、センサーやセンサーノードモジュールの規格不在、クラウド接続への包括的なサポート不足が挙げられる。この解消を狙うのが、Advantechらが中心となる「M2.COM」だ。その概要と現在の懸念点を確認する。
この連載ではIoTに関する規格や団体を取り上げており、ここ数回はPROFINETにOPC(OPC UA)、それにインダストリー4.0と取り上げてきたが、ちょっとフィールドバスの話はお休み。
今回は「M2.COM」の話をご紹介したい。2016年6月9日に国内でも発表会があったばかりということで、もう少しこの内容を掘り下げてご紹介したいと思う(センサープラットフォーム「M2.COM」本格始動、IoTの“ラストワンマイル”解消狙う)。
「M2.COM」とは
このM2.COMは台湾 Advantechが立ち上げた規格である。Advantechそのものは、1983年に元HPのエンジニア3人が立ち上げた会社で、広く組み込み向けのソリューションを展開している。国内でも日本法人としてアドバンテックが1997年から活動しておりご存じの方も多いだろう。
さてそのAdvantechが2016年2月にドイツで開催された展示会「Embedded World」で、IIoT(Industrial IoT)向けの標準プラットフォームとして発表したのがM2.COMである。同社はこれにあわせてM2.COMという標準団体も設立(公式サイト)しており、テクニカルパートナーとしてAdvantechの他にARM、Bosch、Texas Instruments、Sensorionの4社が名前を連ねている。
それぞれの会社の役割も先の記事にある通りで、ARMはCPUコアとOS(mbed OS)を、BoschとSensirionはセンサーを、Texas Instrumentsはセンサーと無線まわりをそれぞれ提供し、Advantechはこれらのコンポーネントをつなぐキャリーボードやモジュールを提供する、というのが各社の役割である。ただM2.COMはオープンスタンダードになっており、既に仕様も公開されているため、この仕様に準拠する形で誰でも好きなようにモジュールやキャリーボードを製造できることになっている。
M.2の仕様を流用したM2.COM
h もう少し仕様の詳細を見てみたい。M2.COMは、最近SSDなどの用途で広く利用されているM.2の仕様を流用する形で制定されている(Photo01)。
M.2はもともとPCI-SIGがSATA-IOなどと共同で制定したもので、主目的はmSATAなどに代わり、ノートPCあるいはタブレット端末などの機器で交換可能なSSDなどを利用するためのものだが、同時にConnectivity(Wi-FiやWAN、Bluetoothなど)モジュールも利用できる様にしよう、というものである。
このためM.2には基本的にSATAとPCI Expressの信号が来ているのだが、もっといろいろな用途で使いたい、というニーズが出てきた。このためM.2ではA〜Mまでの“Key”が定義されている。もっとも大半は「将来の拡張用」ということで、現在利用されているのはA/B/E/Mの4種類であり、それぞれのKeyで用意される信号線は以下のようになっている。
Key | 用意される信号線 |
---|---|
A | PCIx×2・USB 2.0・I2C・DisplayPort |
B | PCIe×2・SATA・USB 2.0・USB 3.0・I2S・UIM・HSIC・SSIC・I2C・SMBus |
E | PCIe×2・USB 2.0・I2C・SDIO・UART・PCM |
M | PCIe×4・SATA・SMBus |
通常はKey MをSSDに、Key BをノートPC向け汎用モジュールに利用している形だ。さて、M2.COMでは、このKey Eをハードウェアの規格として利用している(Photo01でTYPE 2230-D3-*E*と書かれている事からも分かる)。ただし信号は「M2.COM : USB 2.0・UART/CAN・I2C・SPI・PWM・ADC・GPIO・I2S・SD/EMMC」となっており、信号線には互換性が無い。要するにハードウェアを流用して、そこに独自の信号線を通した形になる。
実は、独自なのはそれだけではない。この写真を見ると分かるが、M2.COMではM2.COMモジュールがホストというかコントローラーであり、キャリーボードの側にセンサーなど周辺機器が配置される。これは本来のM.2が想定していた利用法の真逆である(別に悪いわけではない)。
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