世界を変えるAI技術「ディープラーニング」が製造業にもたらすインパクト(3/5 ページ)
人工知能やディープラーニングといった言葉が注目を集めていますが、それはITの世界だけにとどまるものではなく、製造業においても導入・検討されています。製造業にとって人工知能やディープラーニングがどのようなインパクトをもたらすか、解説します。
組み込みでの応用方法
前章では、ディープラーニングを活用して達成された研究事例などを見ました。これらの話は、基本、大規模なデータセンターや高性能ワークステーションでの事例でした。それでは、このディープラーニングの躍進は、組み込みや特に製造業の世界にどういう影響を与えるのか、考えてみたいと思います。
- 学習処理と推論処理
ディープラーニングで世の中の問題を解決するとき、2つの処理があります。「学習処理」と「推論処理」です。学習処理は、大量の学習データをコンピュータに見せるようなものです。1つのデータごとに、順伝播と逆伝播の処理を行い、それを膨大なデータで何度も繰り返します。非常に計算量の多い処理のため、GPUで加速したサーバを利用しても、この処理には何日もかかることがあります。この結果、出来上がるのが、「学習済みのモデル」です。
この作られた学習済みのモデルへ未知のデータを与えて、それを1回の順伝播処理に通して判断させるのが、「推論処理」です。推論処理も、まだ計算負荷の高いものですが、それゆえにさまざまな手法が模索されています。
推論処理の1例として、GPUを搭載した組み込みプラットフォームの利用があります。NVIDIA「Jetson TX1」のようなGPUのパワーをアクセラレーターとして利用できる組み込みプラットフォームを利用すれば、サーバのような大規模計算能力を搭載できない組み込み機器でも、複数・複雑なネットワークを利用可能となります。
図 7 Jetson TX1 モジュール(左)とJetson TX1 開発キット(右)。モジュールから専用の400ピン・コネクター経由で各種信号線が引き出され、キャリアボード上の各種インタフェースに接続される。右の写真はキャリアボードに Jetson TX1 モジュール(ヒートシンク・ファンつき)が載っている状態
Jetson TX1を使ったロボット、ドローン、警備システムなどは、膨大なデータとそれを高性能なGPUサーバで学習させた成果を利用して、人・動物・車両の識別や、音声・自然言語の認識、その他、従来技術では困難であっても、ディープラーニングならば効果的に解決できると見えてきたタスクをこなせるようになりました。
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