生体適合性ゲル電極を持つ柔軟な有機増幅回路シートを開発:医療機器ニュース
東京大学は、生体適合性ゲル電極を持つ柔軟な有機増幅回路シートの開発に成功した。炎症反応が極めて小さいため、臓器に直接貼り付けて生体活動電位を長期間に渡って計測できる。
東京大学は2016年4月29日、同大学の染谷隆夫教授と大阪大学の関谷毅教授らの研究グループが、生体適合性ゲル電極を持つ柔軟な有機増幅回路シートの開発に成功したと発表した。これを用いることで、生体内で生体活動電位を長期間に渡って計測できる。
心臓のペースメーカーや人工内耳などの生体内埋め込み型の電子デバイスが実用化され、広く利用されている。しかし、生体内では、異物を排除するための免疫系による拒絶反応や炎症反応などの防御機能があるため、デバイスを生体内に長期間埋め込み、安定して生体信号を計測することは困難だった。
今回、同研究グループが開発したのが、生体適合性、柔軟性、導電性に優れた新しいゲル素材だ。ポリロタキサンと呼ばれるヒドロゲル(内部に水を保持するゲル)に単層カーボンナノチューブを均一に混ぜて作製する。このゲルは柔らかく、伸び縮みし、かつ柔らかい素材としては最大クラスの電流の流れやすさ(アドミタンス)を示す。
この素材の生体適合性を、優良試験所基準で認定されている第三者機関で評価したところ、4週間の生体内埋め込み試験において、従来の生体内埋め込み型電子デバイスに使われている金属電極と比べて、炎症反応が極めて小さい材料であることが確認された。
さらに、このゲルをセンサーの電極として応用し、厚み1μmと極薄の高分子フィルムに製造された有機トランジスターの増幅回路と集積化した。増幅回路は8×8の格子状に6mm間隔で並べられており、1つの増幅回路は、信号を増幅率200倍にすることができる。周波数帯域100ヘルツでの増幅率は100倍、1000ヘルツでの増幅率は10倍を超えている。ゲルと極薄増幅回路の2つの技術を組み合わせることで、生体適合性に優れたシート型生体電位センサーが創り出された。
このセンサーを動物の体内に埋め込むことによって、微弱な生体活動電位を安定して計測できるようになった。ラットにおける実験では、心臓の疾患部位を正確に特定することにも成功した。臓器に直接貼り付けても炎症反応が極めて小さいので、疾患で弱った臓器も最小限の負荷で検査できると期待される。
今後、使い捨てセンサーとして手術の現場を支援したり、疾病の早期発見や治療に生かしたりと、次世代医療デバイスとしてさまざまな応用が見込まれるという。
シート型生体信号増幅回路の写真と(c)断面模式図,c
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