アウディが新型SUV「SQ7」にディーゼルエンジンを採用できる理由:エコカー技術(3/3 ページ)
フォルクスワーゲングループのアウディが、2015年の総括と2016年以降の戦略を発表する年次会見を開催。48Vシステムやプラグインハイブリッド車、電気自動車、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンと幅広く新技術を投入していく方針を示した。会見の様子と、新たに技術開発部門 担当取締役に就任したシュテファン・クニウシュ氏へのインタビューを併せてお送りする。
ダウンサイジングではなく「ライトサイジング」
スーパーチャージャーをモーターで回転させる考えは古くからあったが、モーターを回転させるためのエネルギーが必要になる。従来は電源と出力のバランスが悪く実用化が困難だったが、48Vシステムでエネルギー回生によってリチウムイオン電池に蓄えた電力を使うことが可能だ。
アウディのシュテファン・クニウシュ氏。1966年生まれ。1990年からアウディのエンジン設計部門に携わる。1996年からはPorsche(ポルシェ)のエンジン開発のプロジェクトマネジャーや部門統括責任者を務めた後、アフターセールスや企業品質管理部門の統括責任者を経て。2010年にポルシェの代表取締役に就く。2013年5月にアウディのパワートレイン開発部門の統括責任者に就任。2016年1月から現職
SQ7 TDIは、クニウシュ氏の専門分野であるエンジンについても独自の技術を投入した。「吸排気ともに可変バルブリフトの機構が備わっている。2つのカムプロファイルによって、吸気側では発進時に電動スーパーチャージャーの起動を助けたり、高回転域で高出力を発揮したりするなど、リフト量を変化させている」(クニウシュ氏)。
また、「排気側の可変バルブリフト機構は、エンジン回転数に伴って、2基のターボチャージャーを順番に起動させる。このディーゼルエンジンは高出力ながら、7.8l/100km(12.8km/l)と燃料消費効率が良好だ。今後、他のモデルでの投入も予定している」(同氏)。
SQ7 TDIは、大ぶりなボディのSUVながら、時速0〜100kmの加速は4.8秒という俊足ぶりだ。発進加速は「Tesla Motors(テスラ)の電気自動車『モデルS』と比較しても素晴らしいと感じられるだろう」(同氏)と自信を見せていた。
ディーゼルエンジンと電動スーパーチャージャーの組み合わせについては、今後の展開を検証中の段階にある。VWグループ全体で課題となっている排気ガスに関しては、最新の後処理装置を搭載し、世界中の基準をクリアした。日本にも近々、グリーン税制に適合するディーゼルエンジン搭載モデルを投入する予定となっている。
アウディを含めてVWグループは日本でディーゼルエンジン車の正規輸入をしていなかったものの、米国での排気ガス不正問題を受けて苦境に立たされている。しかし、アウディはあえてディーゼルエンジン車を日本市場に投入するという。この背景には、最新の規制を達成できるディーゼルエンジンを開発しているという自負がある。
また、“むやみにエンジンの排気量を小さくしないダウンサイジング”である「ライトサイジング」もアウディのエンジンに対する自信の表れだろう。
「アウディは近年、排気量を単純に減らすのではなく、適正にするという意味でライトサイジングという言葉を使っている。最近発表した排気量1.8lのガソリンエンジンは、従来の2lエンジンの代替と位置付けている。『S6』のようなアッパーミドル・セダンであっても、1.8lエンジンで十分に加速できる。190ps以上の高出力エンジンでもミラーサイクルが使えるし、最高出力340psを越える6気筒エンジンを積む『S4』にも、ライトサイジングの考え方を適用している」(同氏)。
アウディはエネルギー企業に!?
また、会見では「デジタルネットワーク」「効率」「エミッションフリー」「都市化」が重要なキーワードとされていたが、それは多くの企業で聞くものだ。自動車メーカーであるアウディが独自にできる提案とは、どのようなものだろうか。
クニウシュ氏は「例えば、自動運転については、競合他社はレベル2の段階を投入しているが、アウディは2018年に発売する『A8』にレベル3のパイロットドライブを搭載する方針だ。また、環境問題への取り組みについては、北海のオフショア発電に投資をしており、カーボンニュートラルで発電した電力を使って天然ガスを合成している。これを利用するのが『A3 g-tron』だ。このオフショア発電は、非常に発電量が高く、地元の電力網に供給しているほどだ。ただ、アウディがエネルギー企業になるというものではなく、こうしたプロジェクトを通して、エネルギー企業に持続可能なモデルを提示し、投資を促す立場にある」と語る。
VWグループの斥候部隊として、技術面で常に一歩先を進む使命を持つアウディは、年次会見でも経営に関わる数字だけではなく、技術に関して明確な姿勢を示す方針を貫いていた。
筆者紹介
川端由美(かわばた ゆみ)
自動車ジャーナリスト/環境ジャーナリスト。大学院で工学を修めた後、エンジニアとして就職。その後、自動車雑誌の編集部員を経て、現在はフリーランスの自動車ジャーナリストに。自動車の環境問題と新技術を中心に、技術者、女性、ジャーナリストとしてハイブリッドな目線を生かしたリポートを展開。カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の他、国土交通省の独立行政法人評価委員会委員や環境省の有識者委員も務める。
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