車輪なしでどうやって移動する?ローバー「ミネルバ2」の仕組み(後編):次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(12)(2/3 ページ)
小惑星リュウグウを目指す「はやぶさ2」に搭載された、ローバー(探査車)が「ミネルバ2」だ。小惑星の表面に降り立ち、調査する使命を持ったミネルバ2の全貌に迫る。
ホッピングのメカニズム
ローバーというと、車輪やクローラでの移動を想像するところだが、ミネルバは違う。月や火星のような重力天体ならば問題はないが、イトカワやリュウグウのように直径が1kmに満たないような小惑星の重力は極めて小さい。ちょっとした地形の凹凸でもすぐに車体が浮き上がってしまうので、車輪やクローラだと空転しやすい。
この「重力が小さくて浮き上がりやすい」ことを逆に活用するのが、ミネルバシリーズで採用されたホッピングによる移動機構である。
原理は非常にシンプルだ。まず本体内部に、重り(アルミ製の円板)を付けたDCモーターを搭載する。このモーターを回転させると、逆向きに回転しようとする力が発生する。回転椅子に座って、伸ばした腕を左に回すと、体が右に回るのと原理は同じだ。この力により、地面を蹴ってジャンプする。
初代ミネルバの場合、ホッピング用のDCモーターをターンテーブルに乗せて、ホップする方向を変えられるようになっていた。ただ、ターンテーブルは仕組みが複雑になり、重くなってしまうという欠点がある。そのため、ミネルバ2では、DCモーター×2セットを直交配置し、それぞれの回転数を調整して、任意の方向に移動する方式が考えられていた。
ところが、開発が進むにつれ、ミネルバ2の重量オーバーが深刻化。最終的に、DCモーターを1つに減らすことが決まった。こうすると、前後方向にしか移動できなくなってしまうが、ローバーを1台にして2自由度を維持するよりも、たとえ1自由度になったとしてもローバーを2台にしたいという判断だろう。
なお、重力が小さいとは言っても、初代ミネルバが行ったイトカワに比べると、ミネルバ2のリュウグウは2倍ほど大きく、重力もそれだけ強い。そのため、DCモーターはより大きなものを搭載しているそうだ。
このDCモーターをフル回転させたとき、発生したトルクにより、秒速10cm程度の速度で飛び上がることが可能。水平方向の速度は、地面との摩擦の大きさや地形次第であるが、もし45°くらいの角度でホップした場合には、一気に10mくらい移動できるという。微小重力環境での実験はドイツで行い、正常に動作することを確認した。
ホップしたミネルバ2は、まるでコイントスのスローモーションのように見えるだろう。ここで表が出ても裏が出ても全く問題はないが、ごくまれに、“コイン”が立ってしまう可能性もある。この場合でも、DCモーターを動かせば、どちらかに倒れるはずなので、問題はないと考えられている。
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