車輪なしでどうやって移動する?ローバー「ミネルバ2」の仕組み(後編):次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(12)(3/3 ページ)
小惑星リュウグウを目指す「はやぶさ2」に搭載された、ローバー(探査車)が「ミネルバ2」だ。小惑星の表面に降り立ち、調査する使命を持ったミネルバ2の全貌に迫る。
昼の灼熱環境に耐えられるか
ミネルバシリーズは工学実証が目的のローバーである。小惑星表面に降り立ち、ホッピングで移動できるかどうか調べればミッション達成なのだが、せっかくたどり着いた小惑星だ。なるべく長く活用して、サイエンスの成果も最大限得たい。
ここで問題になりそうなのは、小惑星の厳しい温度環境だ。リュウグウの詳しい状況が不明のため、実際にどのくらいの温度になるかはまだハッキリとは分からないものの、太陽光に照らされる昼側の高温と、日陰になる夜側の低温が、自転周期で繰り返されることになる。
ミネルバ2は小型であるため熱容量が小さい。すぐに熱くなり、すぐに冷えてしまう。大型のローバーであれば、ヒーターを内蔵するなどの対策も可能だろうが、ミネルバ2には重量的にも電力的にもそんな余裕はない。
JAXAの吉光徹雄准教授によれば、「どちらかというと高温の方を気にしている」という。実験により、電気二重層コンデンサーは、満充電時、105℃で30時間まで耐えられることが分かっている。自転周期は約7時間38分と判明しているので、昼が4時間とすると、1週間程度が寿命の1つの目安になるかもしれない。
ただ、これはバッテリーのみの話であり、当然、それより先に他の機器が壊れる可能性もある。寿命に関しては不確定要素が大きく、「目標は特に設定していない」(吉光准教授)そうだ。
なおローバー1A/1Bで外観が異なっているのは、熱特性を2台で少し変えたためだ。ローバー1Bの方だけ、内部のパネルが剥き出しになっており、この銀色の部分で、外部からの熱の流入を抑えつつ、赤外線の放射で排熱するよう考えられている。ローバーが2台あればこそ、こういった実験もできるというわけだ。
また、ミネルバ2の運用を工夫することで、寿命を延ばせる可能性もある。例えばうまく移動して、なるべくリュウグウの朝か夕方のエリアに滞在するようにすれば、温度環境はよりマイルドになる。ただ、リュウグウの状態が分からなければ、計画を立てようがない。どんな運用になるかは、リュウグウへの到着後に、決まることになるだろう。
筆者紹介
大塚 実(おおつか みのる)
PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「完全図解人工衛星のしくみ事典」「日の丸ロケット進化論」(以上マイナビ)、「人工衛星の“なぜ”を科学する」(アーク出版)、「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min
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