「はやぶさ2」が地球に近づく理由、「地球スイングバイ」の仕組み(1/3 ページ)
小惑星探査機「はやぶさ2」が、軌道を変えて小惑星リュウグウに向かうための「スイングバイ」を行う。国内からの観測チャンスもある、このスイングバイの仕組みについて解説する。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」が2015年12月3日、地球スイングバイを実施する(同日の日本標準時 19時8分7秒に地球へ最接近し、国内では日没後から19時ごろにかけて、はやぶさ2を観測できるチャンスがある)。
はやぶさ2は打ち上げから1年間、地球と併走するような形で飛行していたが、この地球スイングバイにより、ぐっと軌道を変え、いよいよ目的地である小惑星リュウグウへと向かうことになる(関連記事:次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う)。
スイングバイの原理
「スイングバイ」というのは、天体の重力を利用して、軌道を変更する技術である。燃料を消費せずに探査機を加速/減速することができるので、少ない燃料でより遠くまで行くことが可能になる。米国の探査機「Voyager」など、宇宙では古くから使われてきた技術で、日本は1990年に打ち上げた「ひてん」(MUSES-A)で初めて技術実証を行った。
スイングバイでは、天体の近くをかすめるように飛行して、軌道を曲げると同時に加減速を行う。はやぶさ2の地球スイングバイの場合、軌道は約80度曲がり、速度は30.3km/sから31.9km/sへと、1.6km/s加速する。これだけの加速をイオンエンジンでやろうとすれば、全力でも1年かかってしまう。それほどの加速をこの一瞬でやってしまうわけだ。
地球の重力に引っ張られて加速する……と思いやすいが、離れるときには同じだけ減速されるので、これだけでは加速にならない。手を離して地面に落ちたボールが、元の場所より高く跳ね返らないのと同じだ。ではどうやって加速しているのかと言うと、ここで利用しているのは地球の公転。以下の図に示すように、地球の公転速度が加わっているため、太陽を基準にして見たとき、速度が変化しているというわけだ。
このとき、探査機は地球が公転するエネルギーを分けてもらっていることになるので、理論的には、その分、地球の公転速度は減少する。ただ地球と探査機では質量の差が大きすぎるため、現実的には、検出するのは不可能なほど影響は小さい。
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