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素人ベンチャーが1年半で電気自動車を作るには?モノづくり×ベンチャー インタビュー(6)(2/2 ページ)

2014年に15年間勤めた経済産業省を退官した伊藤慎介氏。元トヨタ自動車のデザイナーとともにベンチャー企業「rimOnO(リモノ)」を立ち上げ、1年半で超小型モビリティーの試作車両の完成にこぎつけた。「ここまで来られたのは日本のモノづくりの裾野の広さのおかげ」(伊藤氏)と話す。

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経済産業省の“看板”を失って

 仕事上の人間関係は人事異動などをきっかけに途切れやすい。退官ならなおさらだ。「連絡が来なくなる人はたくさんいたし、頼りにしていた人に力を貸してもらえなかったこともあった。それでも、意外に世の中は捨てたものではないと思える。思ってもいない意外な人や、利害関係のない自分をサポートしてくれる人が、リモノのことを聞いて協力を申し出てくれたからだ」(伊藤氏)。

 単なる新しい出会いではなく、自動車産業の広い裾野から協力者が現れた。同氏は「量産設計は自動車関連の設計会社に依頼しており、試作車両の製造の手配まで協力してくれている。この設計会社は、クルマづくりのベンチャー企業を立ち上げたことを知った人から紹介してもらった。自動車分野の経験がある人と出会えるのは、自動車業界と取引しながら育ってきた会社が日本にたくさんあるからだ。自動車産業の周辺に広い基盤があるからこそ、起業してここまで来られた。自動車産業の基盤がない国や地域ではできないことだ」と強調する。

 起業して1年半で製品発表会を実施できるのは順調のように見えるが「安定した部分は何もない。1年後や2年後は予測できずにいる。クルマが完成しても販売網があるわけではないし、現在の日本の超小型モビリティの制度では地域限定でしか使ってもらえないことになる」(同氏)という。

 2016年5月に実施する製品発表会では、まずはリモノの“手軽で小さいかわいいクルマ”に対する一般の人々のニーズや反応を確かめる。また、量産モデル向けにバッテリーとモーターを提供する部品メーカーを探す狙いもある。「さまざまな協力者に恵まれたが、バッテリーとモーターだけが入手しにくい。バッテリーは性能と価格、安全性の見極めが難しい。モーターは出力が10〜20kWで低電圧で動作する効率の良いものを探しているが、汎用製品では見つからない。電気自動車をつくるハードルの高さを身をもって実感している」(同氏)。

 伊藤氏は将来的に海外展開も視野に入れるが、「日本が課題先進国なら、課題先進国が自ら必要なものを作って使った前例となるべきだ」とまずは国内での実績をつくりたいと考えている。そのためにも、国内企業の部品で国内生産することを目指している。

不安定な道に挑むのは面白い

 伊藤氏は起業のやりがいについて「会社の経営は不安定な状態から安定を作り出すことだ。不安定な中でも本気で試行錯誤すれば新しい結びつきや長い付き合いが生まれる。安定を追求する人が多すぎるのは問題だ。日本はモノづくりの環境と材料がそろっていて、面白い試みであれば利益を度外視しても賛同してくれる人もいる。エリートと呼ばれる層や大企業にいる人は、今の環境でやりたいことができないなら外に出て不安定なことに挑んでみてほしい」と述べた。

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