製造業IoTは、業務アプリケーションとの連携で回収期間が短縮する?:製造業IoT
製造業向けERPシステムを展開するIFSは、IoTへの取り組みについて紹介。製造業を中心にIoT活用への関心が高まる中「業務アプリケーションと連携する価値」についてあらためて訴えた。
製造業向けERPシステムを展開するIFSの日本法人であるIFSジャパンは2016年3月16日、同社のIoTへの取り組みと導入事例などについて説明した。
IFSは、スウェーデンで創業したERP(Enterprise Resource Planning)システムベンダーで、同社の主力パッケージである「IFS Applications」はコンポーネント型を採用しており、必要な機能だけを導入することが可能である点が特徴で、製造業向けで多くの実績を残している。
インダストリー4.0など、製造業の多くがIoTによるビジネス革新に大きな関心を寄せる中、同社はERPを含む業務アプリケーションとの組み合わせが、製造業のIoT活用に付加価値や回収期間の短縮化をもたらすと主張する。
10年前の優良企業1000社の内700社が消滅
IFS グローバル・インダストリー・ディレクターのアントニー・ボーン(Antony Bourne)氏は「10年前にFORTUNE 1000に名を連ねていた企業の7割が今は消滅している。変化に対応していくことが重要だ。IoTについても積極的に取り込む動きが重要だ」と強調する。
既にIFSの顧客企業もIoTを活用し、自社のビジネスモデルに取り込む動きを進めているという。1つの例として紹介したのが、ノルウェーで路面電車を運営するSporveienである。同鉄道では、列車の運行本数を増やしたいと考えていたが、正確に運行できずに遅延した場合、チケット料金の返還などが必要となり、経営面でのマイナスが発生する。そこで運行の信頼性を確保するためにIoTを導入したという。路面電車1つ1つにセンサーを取り付け、約3000の項目でのデータを取得するようにした。これにより運行状況や列車内の機器の異常などを監視できるようになり、メンテナンスなどを計画通り行えるようになったという。
ボーン氏は「時間通りの運行については従来が80%程度だったのが、IoTの導入後は90%へと向上。これにより運行本数も拡大でき、従来が90本程度だったのを106本まで拡大できた。結果的に収益力も向上させることができた」と述べる。
「モノ」から「コト」へ
製品を販売するのではなく、サービスとして提供する「サービタイゼーション(サービス化)」の動きも高まっている。「既に当社顧客の製造業の内、3分の2がサービスを基軸としたビジネスモデル転換に取り組み始めている」(ボーン氏)
製造業のサービタイゼーションとは、販売するものを「モノ」から「コト」へと返還使用という動きである。最終顧客は「モノ」を購入する時に、「得られる価値」を期待している。この「モノ」と「価値」を切り離し、「価値」だけを提供しようという取り組みだ。ボーン氏は「例えば、プリンタを購入するのではなく『1分で5万枚印刷する』という価値を購入するようなものだ」と説明する。
これらの動きに合わせて同社の顧客企業では「2〜3年前までは、生産や設計などアウトソースを活用して行う動きが主流だったが、ライフサイクル全体を通してサービス提供を目指す考え方に変わったことで、内製化するような動きも増えている」とボーン氏は述べている。
IoTと業務アプリケーションの連携
これらのIoT活用やそれに関連するサービタイゼーションの動きの中で重要になるのが、ERPなどの業務アプリケーションとの連携だと同氏は強調する。現場のセンサーデータを取得するようなレイヤーとERPのような上流のレイヤーは少し遠いようにも見えるが、同社は「IoTで重要なのは『知識(知見)』である」(ボーン氏)という。
また、IoTでデータ取得をしても実際にそれに応じたアクションが取れなければ、新たなビジネス価値は生まれない。IFSではセンサーデータの取得やデータをクラウドに収集するところまでは、マイクロソフトの「Microsoft Azure」との連携で実現しており、IFSが担うのは「集まったデータを分析し、アクションにつなげる形で管理や加工、可視化ができるところだ」(ボーン氏)としている。
「IoTは基本的にスイッチを入れてすぐに動くようなものではない。ビジネスの課題に対し、解決するために何が必要なのかという新たな行動を生み出すものがIoTである。そのため、IoTを有効に導入するためには知見が必要となる。調査会社によるとIoTの導入に必要な期間は従来のシステムに比べて伸びる傾向があるというが、ビジネス課題の切り分けや、IT部門と経営陣との橋渡しなどをIFSが支援することで、これらの期間を短縮し、早期にビジネス価値が得られるようにできる」とボーン氏は述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 製造業のIoT活用、他社に“差”をつける考え方
製造業で活用への注目が集まるIoT。しかし、具体的にどういう取り組みを計画すべきなのか戸惑う企業が多いのではないだろうか。また、IoT活用を企業としての利益に結び付けるにはどうしたらよいかという点も悩ましい。本連載「もうけを生む製造業IoTの活用手順」ではこうした製造業のIoT活用のポイントを解説していく。 - 第4次産業革命って結局何なの?
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。しかし、そこで語られることは抽象的で、いまいちピンと来ません。本連載では、そうした疑問を解消するため、第4次産業革命で起こることや、必要となることについて分かりやすくお伝えするつもりです。第1回目はそもそもの「第4次産業革命とは何か」を紹介します。 - なぜIoTなのか、トヨタ生産方式の課題から考える
日本型モノづくりの象徴ともいうべき「トヨタ生産方式」。日本的な“人の力”に頼った手法に見られがちですが、実はトヨタ生産方式にもIoT(Internet of Things、モノのインターネット)は適用可能です。本連載では多くの製造業が取り入れるトヨタ生産方式の利点を生かしつつ、IoTを活用してモノづくりを強化するポイントについて解説します。 - “日本版”製造業向けIoTの中核を目指すNEC、Industrial IoTを全面にアピール
NECは「第26回 設計・製造ソリューション展(DMS2015)」(会期:2015年6月24〜26日)に出展し、2015年6月16日に発表した「NEC Industrial IoT」の一連のソリューションを提案した。 - NEC、自社のグローバル生産管理システムを刷新――2016年3月期までに全社導入を目指す
NECは、グローバルSCM体制の強化を掲げており、その第1弾として、スーパーコンピュータなどを扱うITプラットフォーム事業、および家庭用蓄電池などの蓄電システム事業の生産管理システムを刷新。2013年5月から稼働を開始した。