車載Linuxのオープンソース活動はアップルとグーグルへの対抗軸に成り得るか:車載ソフトウェア Automotive Grade Linux インタビュー(2/2 ページ)
トヨタ自動車などの自動車メーカーが、車載Linux「Automotive Grade Linux(AGL)」を中核とするオープンソース活動に注力している。2016年1月には車載情報機器向けの独自ディストリビューションを発表し、参加企業も国内自動車メーカーを中心に増加している。AGLの活動について、Linux Foundationの日本代表ディレクタに聞いた。
AGLの活動は日本企業がドライブしている
MONOist AGLのメンバーシップは、これまでゴールド、シルバー、ブロンズの3段階に分かれていたが、2016年からは新たにプラチナが加わった。
福安氏 AGL UCBバージョン1.0の開発ではリソース不足に悩まされた。そこで、開発に必要な人員コストを補うため、新たなメンバーシップとしてプラチナを追加した。なお、ゴールドについても参加費が2倍になっている。これで今後のAGL UCBのバージョンアップ活動をスケジュール通り進められるようになるだろう。
MONOist これまで、AGLに参加している自動車メーカーは、トヨタ自動車、ジャガーランドローバー、日産自動車、ホンダの4社だったが、今回、マツダ、富士重工業、三菱自動車、フォードが加わり8社に倍増した。これらのうち6社が日本の自動車メーカーだ。また、プラチナのメンバーシップになったのも、トヨタ自動車、パナソニック、デンソー、ルネサス エレクトロニクス、マツダの5社で全て日本企業だ。
福安氏 AGLの活動を日本企業がドライブしているのは事実だ。ただゴールドのジャガーランドローバーやインテルなどは、オープンソース活動に長く携わってきた背景もあって、人員派遣という形で大きく貢献してもらっている。
新たにAGLのプラチナメンバーになったルネサス エレクトロニクスは、Linux Foundationのゴールドメンバーとして産業機器向けの長期メンテナンスカーネル(LTSI)に関する活動に力を入れており、これはAGLの活動とも連動している。プラチナメンバーとしてAGLに新たに参加したマツダも、2015年末にLinux Foundationのゴールドメンバーになっている。
MONOist 今後のAGL UCBの開発はどのように進めるのか。
福安氏 バージョン1.0はさわれるものを作ったという感じだ。今後は、さらに“使える”ものにしていくための整備が必要。今回、ルネサスのSoCとインテルの「Atom」には対応したので、今後はNXP Semiconductors(旧Freescale Semiconductor)、Texas InstrumentsのSoCに対応する準備を進めている。NVIDIAのSoCへの対応はそれらよりも遅くなりそうだ。
バージョンアップについては、しばらくは半年に1回のサイクルでやっていきたいと考えている。
MONOist 車載情報機器プラットフォームについては、既にQNX Software Systemsの製品やAndroidといった選択肢があり、早急に製品開発するためにはこれらを使えばいいはずだ。また自動車ユーザーが、アップルの「CarPlay」やグーグルの「Android Auto」というスマートフォンベースのサービスを選ぶ可能性もある。AGLの参加メンバーはどういう理由でLinuxベースの車載情報機器プラットフォームの開発に注力しているのか。
福安氏 AGL UCBは完成品を提供するわけではなく、参加各社が自前で車載情報機器プラットフォームを作り上げるための基礎になるものだ。QNXやAndroidのような半完成品の車載情報機器プラットフォームとも違う。AGLの活動に参加するということは、サービスを含めた車載情報機器プラットフォームを自前で作り上げる意思があると考えていいだろう。
またAGLの対象アプリケーションを車載情報機器だけにとどめるつもりはない。メータクラスタ、ヘッドアップディスプレイ、先進運転支援システム(ADAS)も視野に入れていおり、そういった将来的な広がりも重視されている。
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