国産ディーゼル車は本当にクリーンなのか、後処理装置の動作に課題:エコカー技術(2/2 ページ)
国土交通省と環境省は、国内で実施する排出ガス測定試験の手法を見直す検討会の第2回を実施。今回は、トヨタ自動車、日産自動車、マツダ、三菱自動車のディーゼルエンジン車を対象に、実際に公道を走行することで、不正ソフトウェアの有無を確認するとともに、排気ガスが実際に規制基準をクリアしているかなどについて公表した。
なぜマツダ以外は公道試験でNOx排出量が増えたか
トヨタ自動車、三菱自動車、日産自動車のモデルで公道でのNOx排出量が増えたのは、気象や路面状態、渋滞などの走行環境や、ドライバーの運転技術、保護制御の作動などが影響したためだ。
排出ガス低減装置の機能を低減もしくは停止させる保護制御は、エンジンの故障や破損を防ぐために保安基準で認められた機能だ。バス、トラックなどの大型車では保護制御が作動すべき条件が以下のように定められている。
- 最高出力時の回転数×0.3以下、またはアイドル20分以上
- 最高速度×0.8以上の速度
- 時速90km以上の速度
- 標高1000m以上の高所など大気圧が90kPa以下の環境
- 最高出力時の回転数を超えた場合
- 冷却水の温度が100℃以上
- 外気温が−10℃以下(EGR搭載車は0℃以下)
- エンジンや後処理装置の異常時
- 始動後、冷却水温が70℃以下の場合
これらの条件下で保護制御がなければ、排気ガス再循環装置(EGR)でススが堆積して固着したり燃料噴射孔の腐食したりするほか、選択還元型触媒の尿素添加弁が詰まるなどのトラブルが起きる。
試験対象の6モデルのうち、デミオとCX-5を除く4モデルは、大型車の保護制御とは異なる条件で保護制御が働く。
エクストレイルは、吸気温度が12℃を下回るとEGR率を低減、10℃で停止する。また、EGRで頻繁に冷熱を繰り返すとススが堆積してしまうため、停止後600秒は再始動しない設定となっている。EGRが停止すると、NOx吸蔵還元触媒も停止する。
デリカ D:5は、保護制御ではないが、NOx吸蔵還元触媒が作動するのを浄化効率の良い範囲(時速57〜75km、回転数1250〜1650rpm)に限定している。
ランドクルーザー プラドは、触媒が活性化する温度以下での低速走行や、渋滞時のノロノロ運転が連続する場合にはEGRを停止する。また、NOxの排出量に応じて尿素SCRシステムが尿素水を噴射するが、システムを通る排気温度が所定値を下回ると尿素水の量を減量または停止する。
ハイエースは、エンジンの回転数や燃料噴射量が一定の範囲内の場合に吸気温度に応じてEGRを停止する。
保護制御が働かない=排出ガス低減装置を動作させて排出ガス内のNOxが少ない状態を保つように運転するのは、かなり気を遣う作業となりそうだ。天候や渋滞など、ドライバー本人では変えられない要因も待ちかまえている。
一方、デミオとCX-5は特別な保護制御は設定しておらず、低圧縮比化による低温燃焼や混合気のバランス改善により、エンジンから出るNOxを低減している。このため、NOx排出量は気温や走行条件などの変動の影響を受けにくかった。
保護制御は必要だが「何倍もの乖離」は容認されなくなっていく
国土交通省と環境省は、従来の台上試験とソフトウェアでの不正が難しい公道試験を組み合わせることで、不正の通用しないディーゼルエンジン車の評価体制をつくろうとしている。
しかし、現状のように乗用車メーカー各社で異なる保護制御が作動する場合は一律の公道試験で性能を評価するのが難しい。今後は、保護制御が作動する条件を明確に定め、公道試験で評価しやすくする。
欧州では先行してディーゼル車の評価試験が見直されている。2016年からは、新型モデルで公道を走行して測定した排気ガス量の結果を提出することを義務付ける。2017年には、台上試験と公道試験でのNOx基準値の差を2.1倍に収め、2020年にはこの差を1.5倍までとする。
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