フォルクスワーゲンの排ガス不正から始まる、自動車メーカーのEVサバイバル:和田憲一郎の電動化新時代!(17)(1/4 ページ)
排気ガス不正問題で窮地に追い込まれたフォルクスワーゲンが、突然、今後の環境対応車の軸足をディーゼルエンジン車から電気自動車に移すと公表した。それに呼応するかのように、トヨタ自動車、ボルボ、ホンダなども、次々と電気自動車やプラグインハイブリッド車に注力する方針を表明している。これらの動きにはどのような意味があるのだろうか。
前回は、ドイツ自動車メーカーがプラグインハイブリッド車(以下、PHEV)を大量投入し始めた理由について探った。しかし、ここに来て、別の動きが出てきた。ディーゼルエンジン車の排気ガス不正問題で窮地に立たされたフォルクスワーゲン(以下、VW)が2015年10月13日(欧州時間)、今後の環境対応車の軸足をディーゼルエンジン車から、一気に電気自動車(EV)に移すと公表したのである。
それに呼応してか、トヨタ自動車も2015年10月14日、2050年までにエンジン車の新車販売をほぼゼロにすると公表した。また、ボルボは2015年10月15日(欧州時間)、今後発売する全てのクルマにPHEVモデルを準備するとともに、2019年までにEVの販売を開始するとしている。さらにホンダも、今後のエコカーはPHEVを主体に考えるとコメントした。
なぜ急にこのような動きとなったのであろうか。これまでとは潮目が変わったのではないだろうか。
まずはVWの動きに注目したい。今回の発表はある意味で唐突に過ぎる。環境対応車をディーゼルエンジン車からEVに軸足を移すこと自体は、それはそれで長期的に見れば理解できるいいことだ。だが、唐突過ぎる発表には、腑に落ちない面もある。
そこにはどのような戦略があるのだろうか。あくまで仮説にしかすぎないが、今回も彼らの頭の中を読み解いてみたい。
VWの真意は何か
VWの公表の裏には、少なくとも2つのシナリオがあったのではないか、というのが筆者の見立てである。
1つは、ディーゼルエンジンから目をそらさせること。ディーゼルエンジンをあえて昔のものと見なし、今後は新しい方向性としてEVに移行すると公表することで、ディーゼルエンジンへの注目度を下げようとしたのではないか。
さらに、米国環境保護局(EPA)による制裁金や、今後起こるであろう多くの集団訴訟問題に対しても、過去の技術のことを今更蒸し返してもあまり意味がないですよ、と自らの価値を下げ、被害レベルを低く抑え込もうとしたように思われる。
もう1つは、欧米特有の「ゲームのルールを変える」ことである。自社に都合が悪くなったり、窮地に追い込まれたりした時は、ゲームのルールを変えてしまい、別の土俵で勝負しようとすることは戦略としてよく見られる。VWは、近年EV/PHEVに関して、多くの車種開発に取り組んでおり、自動車関係者から見れば既に舵を切っていることは明白であり、取り立て目新しいことはない。しかし、世間一般に対して、あえて今後はEVに軸足を移すと宣言することで、新生VWのイメージを確立したいと考えたのではないだろうか。
これは次のような効果をもたらす。つまり、自分の弱点(ディーゼル問題)から目をそらさせるとともに、まだ他社がそれほど準備できていないEV/PHEVにゲームの土俵を移すことで、自らを新時代のリーダーと見なし、優位な立場に持ち込もうとしたように思われる。
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