“傲慢な”フォルクスワーゲンは排ガス不正を機に開かれた企業になれるのか:VW排気ガス不正問題(1/2 ページ)
2015年9月の発覚から2カ月。フォルクスワーゲンの排気ガス不正問題は収束する気配を見せていない。この問題について、第三者認証機関のDNV GLグループで法務担当ディレクターを務めるThor Winther氏が講演で言及。同氏は「傲慢な企業といわれたフォルクスワーゲンだが、今後は開かれた企業になる必要がある」と述べた。
2015年9月18日、米国環境保護局(EPA)からの通知によって判明した、Volkswagen(フォルクスワーゲン、VW)グループの排気ガス不正問題。排気ガス規制の測定試験のときだけ窒素酸化物(NOx)が基準値以下になるような不正なソフトウェア(Defeat Device)を、“クリーンディーゼル”をうたうディーゼルエンジン車に組み込んでいたことが明らかになり、内部調査の結果、その対象車は全世界で1100万台に達することが分かった。排気ガス不正が判明したことにより、2015年春にフェルデイナント・ピエヒ氏との主導権争いに勝利したばかりの同グループCEO マルティン・ヴィンターコルン氏は退任に追い込まれた。
排気ガス不正が明らかになってから2カ月以上が経過したが収束する気配はない。ディーゼルエンジンだけでなく最新のガソリンエンジンにも不正が発見され、その後大排気量のディーゼルエンジンにも不正が認められたため、これまで対象外だったPorsche(ポルシェ)ブランドにも問題が飛び火している。
「VWは問題が発覚する直前ギリギリまで適切な対応をとらなかった」
第三者認証機関のDNV GLビジネス・アシュアランス・ジャパンが、2015年11月17日に東京都内で開催した「製品欠陥による経営/訴訟リスク対策セミナー」の基調講演に、DNV GLグループでシニアバイスプレジデント 法務担当ディレクターを務めるThor Winther氏が登壇した。
Winther氏は、製造物責任訴訟の国際判事を務めたこともある人物で、米国や欧州における製造物責任関連の法令や、訴訟事例などに詳しい。今回の「欧州における安全の考え方/訴訟リスク対策と自動車産業界のトレンド」と題した講演では、現在注目を集めているVWグループの排気ガス不正問題について言及した。
Winther氏はこの問題を「VW Dieselgate(VWディーゼルゲート)」と呼び、「2010年のメキシコ湾原油流出事故(ディープウォーターホライズン炎上沈没事故)以上の被害額になる可能性が高い」と指摘した。
VWグループは、売上高2000億ユーロ、純利益109億ユーロ、従業員が約58万人。27カ国に100カ所の工場を持ち、年間1000万台の自動車を生産する巨大企業である。今回の排気ガス不正は、このような巨大企業が、組織ぐるみで長年行ってきたことが問題であり、その根の深さはいまだに全容がつかめないところから明らかだ。
Winther氏は、EPAによる指摘以前から始まるVWディーゼルゲートのいきさつを説明した。
時期 | VWディーゼルゲートに関連する事柄 |
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2009年 | VWのTDI(問題になったディーゼルエンジン)搭載車が米国で販売開始 |
2009〜2015年 | Vディーゼルエンジン車の米国での販売が伸び、クリーンディーゼル技術が数々の環境関連表彰を受け、税の優遇も受ける |
2014年 | NGOの国際クリーン交通委員会(ICCT)がウエストバージニア大学(WVU)の代替燃料・エンジン・排出ガスセンター(CAFEE)に、VWのディーゼル技術の利点を実証するように求める |
2014年5月 | CAFEEは実走行環境と規制に基づいた排気ガス測定の間で矛盾のあることを発見。公表に踏み切った |
2014〜2015年 | EPAは試験を繰り返し、VWに説明を求めた |
2014年12月 | VWはTDI車種の自発的なリコールを始めたが、EPAとカリフォルニア州大気資源局(CARB)は納得しなかった |
2015年9月3日 | EPAはこのままでは2016年型ディーゼルエンジン車を認可しないと通告し、ようやくVWは試験をごまかすために不正なソフトウェアを実装したと回答した |
2015年9月18日 | EPAが2009〜2015年のVWのTDI車種についてリコールを求める発表を行う |
2015年9月20日 | VWは不正行為を認め、公的に謝罪を発表 |
2015年9月23日 | VWグループCEOのヴィンターコルン氏が辞任 |
2015年9月29日 | VWは、排気ガス不正を受けて、対象車1100万台に対する改修を発表 |
表 VWディーゼルゲートのいきさつ |
これらのいきさつを説明する中でWinther氏は「VWは、2014〜2015年に何度も行われた指摘に対して『技術的な問題であり、改修できる』としか回答せず、EPAやCARBなどの当局は納得しなかった。そして問題が明るみに出る直前の2015年8月にも会議が行われたが、VWは認めなかった。VWという巨大企業が、直前ギリギリまで適切な対応をとらなかったのは驚くべきことだ」と強調した。
また米国で調査が始まるきっかけがVWのおひざ元であるEUから始まっている事実も紹介した。「2011年にEUの委員会で問題が取り上げられたにも関わらず、的確な対応がとられなかった。この事実を問題視した関係者がCARBに情報を伝えたことにより、米国内での調査が始まった」(同氏)という。
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