世界最高速の振動分光法を開発:医療技術ニュース
東京大学は、世界最高速の振動分光法を開発した。高速に動作する単一の光検出器のみを用いるフーリエ変換分光法の技術で、従来のラマン分光法の最高速手法に対して20倍以上速いという。同手法を細胞評価に利用して、再生医療や医薬品研究に役立てる。
東京大学は2016年2月15日、世界最高速の振動分光法(ラマン分光法)を開発したと発表した。同大学大学院理学系研究科の井手口拓郎助教、合田圭介教授らの研究グループによるもので、成果は同日、英オンライン科学誌「Scientific Reports」で公開された。
振動分光法(ラマン分光法)は、観測対象の物質(細胞、薬剤、半導体など)を構成する分子の種類を光を用いて非破壊的に判別する手法として、物理学、化学、生物学、薬学、医学などの分野で広く利用されている。しかし、従来の技術では計測にかかる時間が長いことから、計測速度が重要な場面では限定的にしか活用されていなかった。
これまでのコヒーレントラマン分光法では、極めて短い時間幅を持つレーザー光(フェムト秒パルスレーザー)を用いて分子の集団的な振動を起こし、そこに別のレーザー光を当てて、その振動の様子を読み取っていた。
今回、同研究グループは、この2つのレーザー光に時間差を与えて、その時間差を変化させることで、たくさんの分子振動情報を読み取る手法(フーリエ変換コヒーレントラマン分光法)の高速化に成功した。
高速化のポイントは、従来の高速振動分光法が分光器を用いていたのに対し、同手法では、高速に動作する単一の光検出器のみを使用するフーリエ変換分光法の技術を用いたことだ。従来の手法では分光器の動作速度が計測時間を制限していた。
これにより、1秒間に2万4000回以上の振動分光計測が可能となった。この値はこれまでのラマン分光法の最高速手法に対して20倍以上速いものだ。
ImPACTプログラムでは、この技術を細胞評価のための計測手法として利用するという。1回の計測で1個の細胞を評価するサイクルを繰り返すことで、1秒間に2万4000個、1時間強で1億個の細胞を1つずつ評価できることになる。
膨大な数の細胞集団の中に埋もれた特殊な希少細胞を、生きた状態のまま探し当てることができれば、その細胞の状態をより詳しく調べ、数を増やすことも可能だ。希少細胞の分身を大量に作製することで、再生医療やバイオ医薬品などの研究が加速することが期待される。
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