機械要素がもりもりのCerevoの「ドミネーター」と開発スタッフの設計力:ママさん設計者、製品発表に突撃(3/3 ページ)
家電ベンチャー Cerevoの記者発表に、MONOistの連載筆者 藤崎淳子氏が突撃! アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」の大ファンで設計者でもある藤崎氏が、同作品に登場する特殊拳銃「ドミネーター」を再現したスマートトイの量産設計や、設計者の創造性とコミュニケーション力について聞いた。
設計者の創造性とコミュニケーション力
2015年9月にドミネータ―の試作機を取材した際、石井氏から「ここまで複雑に動くモノの開発はこれが初めて」という言葉をお伺いしました。さらに量産機では“機構を一から設計しなおして”見違えるほどにクオリティアップさせているのですから、Cerevoの開発陣は、機構設計の素養の高いスタッフぞろいなのは言うまでもなく、自らの手を汚して動くモノを作った経験が豊富で、その応用センスにも長けているのだろうと思いました。
さて最近の機構設計ではCADを使用するのが一般的なので、設計そのものはもちろん、CADの取り扱いも初めてのまま機構設計の部署に配属される人もいると聞きます。そして多くの設計現場では、新規製品の開発工数を削減する目的で、過去の設計データに手を加えることで新規製品を設計する「流用設計」が行われています。これら自体は大した問題ではありません。ただ、「育成」という面から見ると少々問題を感じます。「データに手を加える」と言いながら、その実、過去データのまま使用するケースが多いので、初めて機構設計の世界に入った人が流用設計からスタートしてしまうと、指示のままに流用した機械要素については、思考する必要があまりなくなってしまいます。
そもそも設計作業とは、CADを使って絵を描くことではなく思考作業です。どんなに素養がある人でも、思考の必要がない環境では創意工夫の芽が育たないのでは……と私は思います。そうであればなおのこと、機構設計の世界に入ったらまず「さまざまな製品を手にとって見ること」がはじめの一歩だと思います。
そして許されるならことごとく分解して構造を調べ、そこに用いられている機械要素と、それによってモノが動く仕組みを素手で覚える経験を積み重ねることが必要だと思います。それと同時に、素材と加工方法の基本的な知識を身に付けることももちろん必要不可欠です。
しかし機構設計をする際に必要なのは、機械要素や力学、原理といった“専門的知識”だけではなさそうです。確かに、機構設計の仕事は専門的知識を必要としますが、それよりも重要なのは、「技術的な根拠を持った柔軟な発想力」ではないでしょうか。
今回の製品の場合は、発想力に加えてデザイン的なセンスも求められます。それはなぜかというと、「要求した動作を実現する」ための機能試作段階では、知識と経験がものをいいますが、そこから先の段階では、「必要な機械要素をキレイに収める工夫」「よりスムースに可動させるための部品の追加や改良」といったデザイン性や操作性についても思考を重ねてアイデアを出し、部署内やクライアントに提案していくことが必要になってくるからです。
特に短納期という条件下では、部署間の円滑な連携は不可欠です。従って、設計者の「コミュニケーション能力」も、機構設計に欠かせないスキルと言っていいのかもしれませんね。
Profile
藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。電気屋の家に生まれ、物心ついた時から常にその時代の最新家電に恵まれて育つ。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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