“千手観音”に必要なのは「新たな安全」:工場安全(3/3 ページ)
コネクタメーカーであるハーティングは日本進出30周年を記念し都内で「インダストリー4.0セミナー」を開催。メイン講演の1つに登壇した日本電気制御機器工業会 副会長の藤田俊弘氏(IDEC)は、変種変量生産を求められる状況でのモノづくりの新たな進化とともに、それによって変わる「安全」の価値について述べた。
生産の変化により変わる「安全」の位置付け
生産現場やシステムがオープンとなり、柔軟さを実現するために“人とロボットの協調”が進む中、安全性は従来のように「人と機械の領域を分離する」という発想だけでは難しくなる。藤田氏は日経BP社が主催する新たな安全の姿を追求する「Safety 2.0」取り組みに参加しており安全性についてさまざまな議論を重ねているという。「今までのように一概に人と機械の領域を分離し、侵入があれば止めるというような単純な仕組みでは解決できない問題が出てくる。機械としても『動く』『止める』だけでなく『ゆっくり動く』などを間に設定することなどが必要になる他、作業員のバイタル情報などと連動する形で、安全に運用するような仕組みも可能となるだろう」と藤田氏は述べる。
3ポジションイネーブルスイッチに見る安全性の変化
また、実際にIDECの製品動向を見ていても、これらの安全に対する考え方に変化が起きているという。安全関係のスイッチの1つに、同社が国際標準化に成功した3ポジションイネーブルスイッチがある。1997年に同社が開発したものだ。
通常の2ポジションスイッチは、スイッチを「押している状態」と「離している状態」の2つの状態があり、ロボットなどの場合、押している状態では動き、離している状態で止まるということになる。しかし、まれにロボットが誤作動などをした場合、とっさに作業員が驚いてスイッチを握り込むという状況が発生する。その場合、2ポジションスイッチではロボットは動きを止めないので、事故となる場合がある。IDECの3ポジションスイッチは「押している状態」と「離している状態」と「強く押しこんでいる状態」の3つのポジションを用意し、「離している状態」と「強く押しこんでいる状態」でロボットの作動を止められるというものだ。
これらが認められて国際規格として認定され、ロボットやペンダント製品などの安全用スイッチとして活用が進み、同分野での世界シェアは90%におよぶとしている。ただ、限られた用途の製品であるので、従来は年間10〜20万台規模で安定した需要となっていた。しかし、スマートファクトリーや人とロボットの協調などが話題になり始めた2013年度前後から需要が急増。2012年度には年間20万台だった出荷台数が2015年度には35万台クラスへと成長しているという。
藤田氏は「当社の製品ながらなぜ当社の3ポジションイネーブルスイッチが需要を急に伸ばし始めたのかよく分かっていなかった。しかし、スマートファクトリーなどの動向を見るために海外の工場などに伺う中で、これらの安全性への考え方が変化しつつある状況に気付いた」と述べている。
セーフティアセッサの価値
こうした中で「安全に対して、体系的に取り組んでいくことが重要だ」と藤田氏は強調。安全性について各企業で新たな形を模索する必要性を訴えるとともに、NECAで推進する日本発の安全資格「セーフティアセッサ資格認証制度」の価値について訴えた。セーフティアセッサ資格認証制度は、主に機械の設計者を対象に、国際安全規格に基づく機械の安全設計の能力を認定する制度として2004年に策定。セーフティサブアセッサ、セーフティアセッサそしてセーフティリードアセッサへと順次試験によりレベルアップできるような仕組みを採用している。藤田氏は「安全性の位置付けが変わる中、それぞれが共通の理解を持てる制度として活用できる。また『このレベルであればこういう安全制度で保護する』というような仕組み作りにも役立つ」と述べている。
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