MRIの撮像技術を競う“甲子園”、テーマは「過去の発表を改良せよ」:医療機器ニュース
GEヘルスケア・ジャパンが、同社MRI(磁気共鳴画像診断装置)のユーザー会「第11回Signa甲子園2015」を東京都内で開催。全国の予選を勝ち抜いたMRIのユーザーである技師が、自身の創意工夫を加えた撮像技術を発表する場であり、“甲子園”と呼ぶにふさわしい熱気に包まれた。
GEヘルスケア・ジャパンは2015年12月12日、東京都内で、「Signaシリーズ」をはじめとする同社MRI(磁気共鳴画像診断装置)のユーザー会「第11回Signa甲子園2015」を開催した。全国から、MRIのユーザーである医療施設の放射線科に所属する技師など168人が参加した。
Signa甲子園は、2005年から毎年開催されている、GEヘルスケアのMRIユーザーによる全国規模のユーザー会だ。今回は東京での開催となったが、前回の京都のように関東圏以外でも開催されている。
全国規模とはいえ、1企業のユーザー会に、150人以上の医療従事者が多忙な業務の合間を縫って全国から集まるのはなぜか。それは、MRIの良好な診断画像を得るための撮像技術が発表される場になっているからだ。GEヘルスケアのMRIユーザーは、国内36の地域に分かれたユーザーズミーティング(UM)で情報交換を行っている。
今回のSigna甲子園で撮像技術を発表したのは、各UMが参加する地域予選に勝ち残った上で、最終予選を潜り抜けた10人だけ。まさにGEヘルスケアのMRIユーザーにとっての“甲子園”になっている。そして、それら10人による撮像技術の工夫を知ることができれば、明日からでも医療行為に応用できる可能性がある。だからこそ多くの医療従事者が集まるわけだ。
「過去の演題をブラッシュアップする」という縛り
第11回となる今回は第10回までとは少しアプローチが異なる。これまではMRIの撮像技術の創意工夫を発表すればよかったが、今回は「過去のSigna甲子園の演題をブラッシュアップする」という縛りが設けられている。これは参加のハードルを低くすることが目的だ。過去10回の演題との比較から発表をためらうこともあるかもしれない。そこで、その過去の演題そのものをテーマにして、GEヘルスケアのMRI歴が浅いユーザーも参加しやすくしようという試みになっている。
さらに今回は、発表した撮像技術を、GEヘルスケア製MRIのソフトウェアのどのバージョンで再現できるかという「再現性」も評価対象になった。以前に発売された古い装置であっても活用できる撮像技術を高く評価しようという意図がある。
各発表者は10分間の持ち時間を使って、過去のSigna甲子園の演題を基に、MRIの撮像をさらに良好かつ短い時間で撮像できる技術を発表した。
発表内容の審査は、各UMから選出された審査員が行う。審査項目は1)改善前後での画質の変化、2)創意工夫、3)臨床的実用性、そして今回から加わった4)再現性の4項目。審査員は1)〜3)の各項目を3点満点、総計9点満点で採点する。なお4)の再現性は、事前にSigna甲子園の実行委員会と事務局が事前審査を行っており、こちらも3点満点で加点される。一般参加者も投票によって採点に参加でき、1つの発表につき3点満点で採点する。
その結果、トップの金賞を獲得したのは、福井UM/財団医療法人中村病院 佐々木基充氏の「すべてSignaにおまかせ! 〜呼吸同期腹部造影検査」だった。前回の2014年に金賞を獲得した、新潟大学医学歯学総合病院 斉藤宏明氏による「Signaにおまかせ! 呼吸同期EOB肝細胞造影相」が引用元として、息止めが難しい高齢者などのMRI検査に用いられる呼吸同期による全ての腹部造影検査に適用できることが評価された。
今回の各発表における再現性の評価は、ソフトウェアバージョンが20以上のグループ1、バージョン14〜16のグループ2、バージョン12以下のグループ3それぞれで利用可能かが判定基準になった。金賞の佐々木氏の発表は、ソフトウェアバージョンが9.1というかなり古い装置でも利用可能であり「全くバージョンを選ばない」(同氏)こともポイントになったようだ。
なお、銀賞は埼玉UM/上尾中央総合病院 石川応樹氏の「Off Center Shimより長方形Shimでしょ!」、銅賞は広島UM/広島平和クリニック 佐々木公氏の「Auto FUI Scan」が獲得。またGEヘルスケア・ジャパンのMRI事業のアプリケーション担当部署が選ぶGE Application Selection賞は北九州UM/新別府病院 加藤広士氏の「アーチファクトは友達 片手で両手? 高分解能、よくばり映像」、ブラッシュアップ元として引用数が最多の過去演題を表彰するMCP(Most Cited Presentation)賞は、神奈川UM/けいゆう病院 五十嵐太郎氏が2013年に発表した「VR DWIBSのすすめ」だった。
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