VW会長ディース氏「電気自動車の性能向上には電気化学研究者の協力が必要」:電気自動車
ドイツの大手企業であるBASFとフォルクスワーゲンは、東京都内で「サイエンスアワード エレクトロケミストリー」賞の授賞式を開催。授賞式に出席したフォルクスワーゲン 乗用車ブランド 取締役会長のヘルベルト・ディース氏は「電気自動車の性能向上には電気化学研究者の協力が必要」と訴えた。
ドイツの化学大手BASFと自動車大手Volkswagen(フォルクスワーゲン)は2015年10月28日、東京都内において「サイエンスアワード エレクトロケミストリー」賞の授賞式を開催した。
サイエンスアワード エレクトロケミストリー賞は、エレクトロケミストリー(電気化学)分野の科学技術の卓越した成果を促すとともに、高度なエネルギー貯蔵手段を開発するための契機となることを目的に、BASFとフォルクスワーゲンが2012年に創設した。世界中の学術的研究コミュニティーの科学者を対象に、年に一度の表彰を行っている。賞金総額は10万ユーロで、最優秀者には5万ユーロが贈られる。
授賞式には、両社のトップである、BASF取締役会長のクルト・ボック氏、フォルクスワーゲン 乗用車ブランド 取締役会長のヘルベルト・ディース氏が出席。5人のファイナリストによる研究内容のプレゼンテーションに耳を傾けた。
最優秀者に選ばれたのは、カリフォルニア大学バークレー校のブライアン・マクロスキー氏だった。
なお、5人のファイナリストの名前と所属、研究内容は以下の通り。
- ブライアン・マクロスキー氏(カリフォルニア大学バークレー校):非水系リチウム空気電池の基本的な限界を解明するための電気化学プロセスの研究
- イー・チュイ氏(スタンフォード大学):エネルギー密度をさらに増大させる次世代電池技術のためのナノスケール材料
- サティヤ・マリンヤッパン氏(粉末冶金・新素材国際先端研究センター/インド・チェンナイ):商業用正極材料を狙った、さまざまなリチウムイオン電池電極材料の開発およびナトリウムイオン電池電極材料の研究
- 折笠有基氏(京都大学):空間・時間的階層構造オペランド解析による電気化学デバイスの高性能化
- アレクサンドル・ポンルーチ氏(スペイン国際研究評議会):次世代電池技術の負極として利用可能な金属リチウム、ナトリウム、マグネシウムおよびカルシウムの被覆/剥離メカニズムに関する研究
「ポジティブな影響を与えたい」
授賞式が開催された2015年10月28日は、「東京モーターショー2015」のプレスデー第1日目に当たる。同日の午前中、フォルクスワーゲンのプレスブリーフィングに出席したディース氏は、排気ガス不正の問題を陳謝するとともに、電気自動車分野を強化する方針を示している(関連記事:VW会長「プラグインハイブリッドに注力」、ディーゼルの日本投入は延期)。
プレスブリーフィング後、報道陣の対応に追われたディース氏だが、夕刻開催となったサイエンスアワード エレクトロケミストリー賞の授賞式にもしっかりと出席した。ファイナリストのプレゼンテーションの前には、あらためフォルクスワーゲングループの方針と、電気化学分野の研究に対する期待について語った。
ディース氏は「フォルクスワーゲングループは、アウディやポルシェも含めて、電気自動車やプラグインハイブリッド車を重視していく。電気自動車の価格はまだ内燃機関車よりも高い。しかし、内燃機関車はより厳格されていく排気ガス対策のためにコストが増加する。これに対して、電気自動車の価格の大半を占める電池には性能向上のポテンシャルがある。そして電池の性能向上には電気化学研究者の協力が必要だ。当社はBASFとともに、このサイエンスアワード エレクトロケミストリー賞を通して、ポジティブな影響を与えていきたい」と強調する。
またボック氏も、「電池材料の市場規模は2020年に50億ユーロに達すると見込まれている。BASFも数億ユーロ規模の投資をこの分野で行っており、2015年2月には戸田工業と正極材料で提携した。電気化学分野の研究を推進することで、都市環境の改善に役立つエレクトロモビリティに貢献したい」と述べている。
5人のファイナリストと、BASFとフォルクスワーゲンの経営陣による記念撮影。最優秀者のマクロスキー氏はトロフィー、その他のファイナリストは青い賞状を携えている。ファイナリストは、サティヤ・マリンヤッパン氏(左から2番目)、アレクサンドル・ポンルーチ氏(左から3番目)、折笠有基氏(左から4番目)、イー・チュイ氏である(右から3番目)(クリックで拡大)
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