バネ上マウントのウィングの怖さ:車を愛すコンサルタントの学生フォーミュラレポ2015(1)(4/4 ページ)
車とバイクが大好きなモノづくりコンサルタント 関さんの「全日本学生フォーミュラ大会」取材レポート! 2015年の第13回大会は「ある変化」がありました。そして前回の覇者・名古屋大学、エンデュランス競技でトラブルが……!
名古屋大学 VS グラーツ大学
最終レースは2014年度の覇者、No.1の名古屋大学「FEM-12」と、今回初参戦、オーストリアのグラーツ大学(University of Graz)の登場です。この2台の走りは今大会最大の盛り上がりだったといえます。
先にスタートするのは名古屋大学、パールホワイトの車体がまぶしい「FEM-12」です。
ゼッケン1番と「HONDA」のロゴが、クルマをこよなく愛する中年コンサルタントの脳裏に本田宗一郎氏が率いていた頃のホンダ(本田技研工業)のF1マシン「RA272」を浮かびあがらせます。「FEM-12」が搭載するエンジンは、ホンダ「CBR600RR」の直列4気筒。美しい高音を響かせながらのスタートとなりました。1周目からいきなり1分5秒台をマーク! さすが、前回の覇者です。
続いてスタートするのは日本市場でもモーターサイクルのシェアを伸ばしているオーストリア KTM製の510cc 単気筒エンジンを搭載したグラーツ大学。
モータースポーツをはじめ、エアレースなどで積極的にスポンサー展開しているRed Bullがグラーツ大学チームのメインスポンサーであり、そのロゴを冠した美しいマシンが多くの観客の注目を集めていました。筆者もKTMのモーターサイクルには何度か乗ったことがありますが、エンジンはパワフルそのものでした。
日本製4気筒エンジン対オーストリア製単気筒エンジン、日本の大学生対オーストリアの大学生の一騎打ち! これは白熱した展開になりそうだ! と、固唾をのんでその勝負を見守りました。
その予感は見事的中、グラーツ大学も1周目こそ1分5秒台でしたが、2周目からは両車とも1分2秒台でのハイレベルな走行で、1周ごとにベストラップ更新合戦になりました。5ラップ目だったでしょうか、名古屋大学が1000分の2秒差でベストラップを出した時は会場全体からどよめきがわき上がりました。今回を含め筆者が観戦した4回のエンデュランス走行の中では、間違いなくクライマックスといえるシーンでした。
2チームはほとんどタイム差がない状態で10周目を終え、ドライバーチェンジです。難なくリスタートした名古屋大学に対し、グラーツ大学は再始動にてこずり、名古屋大学が11周目を走り終えた後にようやくリスタートしました。
セカンドドライバーに変わっても2チームのハイレベルな戦いが続きます。グラーツ大学のドライバーは毎周回、第1コーナーのイン側のパイロンをかすめるようなライン取りをしてきます。しかもパイロンタッチは皆無です(パイロンタッチ1回につき2秒のペナルティが課せられます)。ドライビングスキルの高さがうかがえますね。
そして名古屋大学、運命の13周目……、コース奥の追い越しエリア付近でリアウィングを保持するステーが折損し、ウィングが宙を舞いました。観客席からは悲鳴にも似た声が聞こえてきました。「FEM-12」はそのまま走行を続け、第1コーナーを抜けるも、一番スピードの乗る第2コーナーでリアタイヤがグリップを失ってスピン! リアウィングが生んでいたダウンフォースが失われたせいでしょうか。
しかも、車体左側のステーが上部で折れてしまったため、長いステーを引きずりながらの走行になって、危険な状態です。当然オフィシャルからオレンジボールフラッグ(ピットイン指示)が振られ、名古屋大学の連覇の可能性はここでついえたのでした……。実況では「バネ上マウントのウィングの怖さ」との解説がありました。
単独走行となったグラーツ大学のマシンはKTMビッグシングルエンジンの野太い排気音を響かせ、ペースを落とすことなくラップを重ねます。しかも毎周ベストラップ更新という素晴らしい走りっぷりで、18周目にはついに1分00秒960をマーク! 残り2週も危なげなく走り切り大きな拍手を受けながらチェッカーフラッグを受けたのでした。
わが母校も頑張った!
レースには「たられば」はありませんが、名古屋大学のマシンが壊れなければ最後まで白熱したデッドヒートが繰り広げられたことでしょう。2位の名古屋工業大学に55秒もの大差をつけてエンデュランス競技で優勝したグラーツ大学はもちろんのこと、上位に入ったチーム、リタイヤしたチーム、エンデュランスに出走すらできなかったチーム、全てのチーム関係者の方々に心から敬意を表します。
そうそう、我が出身校である芝浦工業大学「SHIBA-4」はエンデュランスで6位に入りました! 今回は時間がなく、ピット取材はおろかマシンの写真すら撮影できませんでしたが、とある筋からの情報によりますと、ドライバーは学生フォーミュラがやりたくて芝浦工業大学に入学したとのこと。そしてきっちりと結果を出すという、まさに有言実行の人物だそうです。
こういう若者たちがこれからの日本のモノづくりを背負っていきます。学生フォーミュラは学生たちが資金集め、構想設計、詳細設計、解析、走行テスト、問題対策などなど多くのプロセスをこなしながら大会に出場する、実にレベルの高い競技です。まだまだ認知度が低いようで、観客の中には「こんな大会がもう13回も開催されてるんだ。今まで全く知らなかったよ」と言う方もいらっしゃいました。私も微力ながら、この素晴らしき若者たちの大イベントを広めるべく、今後も尽力して参りたいです。
なお今大会の結果は全日本学生フォーミュラの公式サイトからもダウンロード可能です。
次回は悲喜こもごものピットレポートをお送りします。(次回へ続く)
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