車両火災が!……でも実証された安全性:第6回全日本 学生フォーミュラ大会 レポート(1)(1/3 ページ)
走行車からの奇怪音や発火事故が発生した第6回 学生フォーミュラ大会。走行審査の中継アナウンサーにその舞台裏を直撃!
2008年9月10日から14日の4日間、静岡県・掛川にて第6回 全日本 学生フォーミュラ大会が開催された。
今年の大会は、上智大学が初の3連覇を成し遂げ、昨年からの変更点として車検日数が1日増加、そしてエンデュランス時に発火事故が発生するなど、数々の出来事があった。
昨年の記事でも紹介したように、学生フォーミュラ大会は当日4日間のうち後半に行われるエンデュランス(製作した自動車の走行タイムを測定)に出場する条件として、大会前半に行われる車検の通過が必須となっている。
しかし車検は非常に厳しくチェック項目も多いため、例年いくつかのチームがエンデュランスに進むことなく大会を終えてしまうという。今年はそういったことを回避し、より多くのチームにエンデュランスへ進む機会を増やすため、車検の日数を1日増加。初日から3日間かけて車検が実施された。
編集部では、エンデュランスで中継アナウンスを務めていたトヨタ自動車の桜井氏にインタビューを行い、4日間を通しての印象深いエピソードを伺った。桜井氏は車検員としてもボランティアでかかわっている。
なお、上智大学3連覇の裏話については後日お伝えする予定なのでお楽しみに!
“カラカラ”音の正体
大会4日目、エンデュランス10周目を過ぎたあたりで何やら奇怪な音が聞こえてきた。その音はどうやら、前日の締め切り直前に見事車検を通過したという崇城大学の車体から聞こえているようだ。
“カラカラカラ……ガラ……ガラガラ”
次第に大きさを増すその音に、コース周りで見守るチームメンバーや見学者は不安を募らせた。車体内部、特にエンジン部に故障があれば一大事となってしまう……、エンデュランスのオフィシャル責任者からも車両停止のサインを出そうか見極めている様子がうかがえた。
と、そのとき、非常に具体的かつ説得力のあるアナウンスが鳴り響いた。
「どうやらチェーンがフレームに干渉している音のようですね。徐々に大きくなっていますが、この音はアクセルを踏んだ時に出ているので、駆動側での音でしょう。走行には支障ありません。崇城大学、このまま走行が続行できます」
その場にいた誰もが肩をなでおろしたであろうその声の主は、昨年度からエンデュランスの中継アナウンスを務めている桜井氏だ。
エンデュランス終了後、桜井氏にそのときのエピソードを伺うと、
「あれは正直いってちょっと策略があったんですよ。通常ならばあのようなチェーンからのカラカラという音が聞こえると、オレンジボールという車両停止の指示が出ます。つまり走行終了を示します。車両火災が起きてしまうとか、走行中に車体が回転してしまうなど、周囲に危害を及ぼす現象が起きている場合は、なんのためらいもなく止めます。しかし今回の場合は、音の原因がチェーンにあるということがすぐに分かりました。しかも音が徐々に大きくなっていたので、これはチェーンが絡まっているわけではない、よって走行には支障がないな、と」(桜井氏)
「また音の軽さから、その音がアクセルを踏んでいるときに出ているということが分かりました。つまり、駆動側で音が出ているのでダメージは少ない。現象としては上のチェーンが少したるみ、引っ張り側のテンションが掛かっている方にはチェーンが当たっていないということです。逆に、アクセルを踏んでいないときに音が出るということはチェーンが上に張ったときに力が掛かっていることを意味するので、とても危険です。たるんでいるチェーンは当たっても支障が少ないですが、引っ張っているチェーンに当たると力が掛かるのでダメージが大きくなります」(桜井氏)
テストドライバーとして自動車製造現場の一線で働く桜井氏は、フォーミュラ大会で作製される車体の構造も知り尽くしている。コース横からの外面と音による判断では危険と感じた状況を、桜井氏は自らの経験からその“カラカラ”音の原因を瞬時に見極め、危険なものではないことをコース上のオフィシャルならびに現場にいたすべての人へアナウンスという形で伝えたのだ。
「たるみの程度は音を聞いただけで分かります。今回はそれを動的イベントのキャプテンにアナウンスという形で伝え、チェーンは万が一切れてしまっても車体が止まるだけで済むことは車検時に確認済みでしたので、これはもう走らせて、もし切れてしまっても危害が少ないというのが分かるように説明しました」(桜井氏)
エンデュランス終了間際に桜井氏が「チェーンよ、どうかもってくれ!」といった一言は、どうやら感情ではなく技術的な裏付けによるものだったようだ。
走行中の実況中継が始まったのは去年からということだが、こうした経験からも今年は、桜井氏のように自らの意思でスタッフとして参加し、手作りで大会を運営している多くの人々によって支えられていることを実感した大会だったといえるだろう。
崇城大学の横山敏郎チームリーダーは、
「なにしろ初参戦でしたので、製作もギリギリに出来上がったというような状態でした。今回の原因はまさにそこにあります。試走をあまり行っていなかったために車両のチェーンがまだ新しい状態で、走行中に伸びてしまいました。また、チェーンの振動によって溶接剥離(はくり)が起きて、それが原因でさらに音が出ていたようです」(横山さん)
「ただ運がいいことに、エンジンを支えているマウントの形状がチェーンを沿うような形になっていたのでそれがチェーンを支えるような形となり、ほかに影響を及ぼすことがなく何とか走り切ることができました」
車検日数の追加や車体デザイン、そして横山キャプテンが感謝の意を示した大会側の配慮により、第6回学生 フォーミュラ大会のエンデュランス部門は大勢の人の拍手の中、幕を閉じた。
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