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ウシ体細胞から全能性を有するiPS細胞株を樹立医療技術ニュース

京都大学は、生殖系列細胞を含む全ての組織および器官に分化する人工誘導多能性幹(iPS)細胞株を、ウシから作製することに成功したと発表した。個体の構築が可能なナイーブ型細胞株をマウス以外の哺乳動物で樹立した、初の成功例となる。

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 京都大学は2015年8月20日、生殖系列細胞を含む全ての組織および器官に分化する人工誘導多能性幹(iPS)細胞株を、ウシから作製することに成功したと発表した。同研究は、同大農学研究科の今井裕教授、川口高正同博士課程3回生(現小野薬品工業研究員)、農業・食品産業技術総合研究機構の木村康二主任研究員(現岡山大学環境生命科学研究科准教授)、松山秀一主任研究員らの研究グループによるもので、8月19日に米科学誌「PLOS ONE」のオンライン速報版に公開された。

 1981年にマウスの初期胚(胚盤胞期胚)の多能性分化能を有する細胞群(内部細胞塊)から初めて多能性幹細胞が樹立され、胚性幹(ES)細胞と名付けられた。現在、マウスでは、ES細胞やiPS細胞から、正常胚とのキメラ形成を介して、生殖系列細胞や組織・器官形成へと細胞分化を誘導し、これら多能性幹細胞の遺伝的バックグランドを次世代に伝えることが可能になっている。このような、個体の構築が可能なタイプの細胞はナイーブ型細胞株と呼ばれる。

 それに対し、マウス以外の哺乳動物で多能性幹細胞を作製しようとすると、マウスの細胞株とは形態も性質も異なり、生殖細胞に分化できないプライムド型細胞株が樹立される。家畜のように、多能性幹細胞を個体の再構築に利用しようとする場合にはナイーブ型の細胞株が必要だが、これまでその樹立には成功していなかった。

 今回の研究では、ウシ羊膜細胞を用いて、Oct3/4、Sox2、KLF4、c-Myc遺伝子(山中因子)を細胞に導入するとともに、その発現を制御できるベクターを利用した。それにより、プライムド型だけでなく、ナイーブ型のウシiPS細胞株が樹立された。また、培養液に加える細胞分化抑制因子とサイトカインの種類を変更することによって、細胞株のタイプを自在に変えることが可能になった。

 さらに、ナイーブ型のウシiPS細胞は胚体外細胞系列へも分化しうることも示された。マウスのES細胞などは胚体外細胞系列へは分化しないことから、ウシのナイーブ型幹細胞の細胞分化能はマウスのそれとは異なっており、体を構成する全細胞に分化する能力を有していると考えられる。

 同成果は、ウシ以外のさまざまな動物種で個体形成能を有する多能性幹細胞株を樹立する糸口となる。また、家畜改良、有用遺伝資源および希少種・絶滅危惧種の保全、医学領域などに、この幹細胞株が応用できると考えられるという。ただし、これらの細胞株がどのようなリプログラミングの過程を経てナイーブ化したものであるのかは不明であり、そのメカニズムについて今後検討していくとしている。

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プライムドiPS細胞(左)とナイーブiPS細胞(右)

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