チーム医療現場を支える臨床情報システム(CIS)の進化:医療機器開発者のための医療IT入門(2)(3/3 ページ)
医療機器開発者向けに、医療情報システムに代表される医療ITの歴史的背景や仕組みを概説する本連載。第2回は、チーム医療現場を支える臨床情報システム(CIS)を取り上げる。
高度な安全管理が要求される手術支援システム
病院の手術部門では、手術の高度化・複雑化が進む一方、増加する長時間手術や慢性的な専門医・看護師不足に対応するために、チーム医療による業務プロセスの効率化と医療の質・医療安全の向上の両立が求められる。
手術支援システムには、オーダーエントリーシステムから受け取った手術依頼情報をもとに、手術部門側で申込処理して、手術スケジュールを決定し、関連部門に伝達する手術オーダー機能、麻酔医の術前評価を支援する機能、術前に必要な物品を準備して術後に使用物品を記録する手術材料管理機能、麻酔記録など術中の経過を記録する機能、手術情報管理データベースに手術後確定する情報を追加登録して集計検索する機能、手術リポートの作成支援機能、患者の生体情報を監視・モニタリングする機能、手術室と外部をリアルタイムに結ぶ双方向通信機能、手術室の環境を監視する機能、手術で利用する医療機器の操作および保守点検を効率化する機能などがある。
手術部門では、医師や看護師に加えて、医師の指示のもと生命維持管理装置の操作および保守点検を行う臨床工学技士が、医療機器の安全管理で重要な役割を果たしている。
2007年4月、厚生労働省が医療機器を安全に使用するための指針を発令し、医療機器安全管理責任者の設置や特定医療機器に関する厳格な研修・保守点検などを求めてからは、別個に臨床工学部門を設置し、統合的な医療機器のライフサイクル管理を行うケースも増えている。
医薬品物流と連携する薬剤業務支援システム
病院の薬剤部門は、院内で使用する医薬品の品質確保と的確な管理に注力しながら、臨床現場に供給すると同時に、副作用/相互作用など、医薬品安全に係る情報を提供する役割を担っている。薬剤師が、薬剤業務支援システムの主要ユーザーだ。
薬剤業務支援システムでは、医師がオーダーエントリーシステムに登録した処方情報を、薬剤部門の端末で薬剤師が閲覧し、監査した上で処方内容に問題がなければ、調剤を開始する。また、監査前後のタイミングで、調剤の実施情報をオーダーデータベースに登録し、薬剤業務支援システムに取り込む。なお院外処方箋の場合、処方オーダーは薬剤業務支援システムに取り込まれず、外来医師側で処方箋を出力し、患者に手渡す。
また薬剤部門は、病院における医薬品の物流管理機能を担っており、オーダーエントリーシステムと病院物流管理システムを連動させながら、医薬品の在庫管理、医薬品卸売業者との間での発注・納品確認業務を行う。その他、薬剤業務支援システムには、医薬品情報提供機能、服薬指導支援機能などがある。
管理栄養士や栄養士を支える栄養管理支援システム
栄養管理部門では、管理栄養士や栄養士を配置して、入院患者向けに栄養学的に考慮した食事を提供し、患者満足度の向上に努めるとともに、退院患者や外来患者向けに食事療法に関する指導・教育を行っている。
栄養管理支援システムは、入院患者向けに、オーダーエントリーシステムから受け取った給食(食事)依頼情報をもとに、栄養部門側で受付処理し、指示内容に基づき食数を管理する機能、個々の患者の状態に応じた食事の献立・栄養・配膳管理機能、食材の発注管理機能、多職種協働の栄養サポートチーム(NST:Nutrition Support Team)による栄養療法を支援する機能などを提供する。また、退院患者や外来患者向けに、糖尿病治療など、家庭での食事療法における栄養指導を支援する機能を提供する。
臨床情報システム(CIS)はサービス・ドリブンの起点
病院内では、業務の効率化や患者満足度の向上を目的として、センサーやウェアラブル機器に代表されるモノのインターネット(IoT)の利活用への関心が高まりつつあるが、各部門とも、専門職によるプロセスとプロダクト(ハードウェア/ソフトウェア)を組み合わせたサービスとして提供される点は変わらない。
制御技術(OT)主導だった医療機器はコモディティ化が進み、オープンなIoTとビッグデータの分析/可視化技術を組み合わせた新機能の開発により、競争力の強化を目指すベンダーが増えている。そんな中、さまざまな専門職の業務フローとひもづいた臨床情報システム(CIS)は、サービス・ドリブンの考え方に基づくソリューション開発の起点となるのでその動向には注意を払うべきだろう。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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