ブリヂストンと住友ゴムが注目する天然ゴム資源「ロシアタンポポ」:タイヤ技術(2/2 ページ)
タイヤの主原料である天然ゴムは「パラゴムノキ」から産出されている。パラゴムノキが熱帯で生育することもあって天然ゴムの生産地は東南アジアに集中しているが、このことはタイヤ産業にとっては大きなリスクになっている。そこで、パラゴムノキに替わる天然ゴム資源として注目されているのが「ロシアタンポポ」である。
第二次世界大戦中に栽培されたことも
もしパラゴムノキ以外の植物資源から、効率よく天然ゴムを産出できればこの課題は解決できるかもしれない。その候補として注目されているのがロシアタンポポなのだ。
ロシアタンポポは、一般的に知られるタンポポとは全く異なる植物で、カザフスタンとびウズベキスタン原産の多年草だ。根の部分に、パラゴムノキから産出されるものと同等の性質を持つ天然ゴムを含んでいる。
また、パラゴムノキと違って温帯地域で生育するので、東南アジアからの輸送コストが高い北米や欧州など多くの地域で栽培できる。また、もしパラゴムノキを使った天然ゴム生産が疫病や悪天候で影響を受けたとしても、ロシアタンポポにも影響が出る可能性は少ない。
かつて第二次世界大戦中には、戦地になった東南アジアで生育するパラゴムノキの代わりに、米国の42州やソビエト連邦で栽培され、実際にタイヤ生産に使用されたという逸話もある。しかし戦後は、パラゴムノキの方が生産効率が良いため、ロシアタンポポは栽培されなくなった。
しかしKultevatは、栽培法やバイオテクノロジーの進展により、ロシアタンポポからの天然ゴム生産の効率は飛躍的に高まっているとしている。1年で収穫する前提で、栽培面積1エーカー(約4000m2)当たり1〜1.5トンの天然ゴムが得られるという。これに対してパラゴムノキは、生産量が1エーカー当たり0.6トンで、収穫可能な状態まで成長させるのに5〜7年かかる。
ロシアタンポポの天然ゴムになる原料は、収穫した後に根の部分から機械で抽出することができる。パラゴムノキは、樹木表面に付けた傷から流れ出る樹液を人力で集めているので、ロシアタンポポの方がより高効率だというのだ。
ブリヂストンも実用化研究を加速
実は、ロシアタンポポから高効率に天然ゴムを得るための研究は、ブリヂストンも行っている。2012年5月に、米国法人のBridgestone Americas Tire Operations(BATO)が米国オハイオ州の産学連携コンソーシアムPENRAに参加して進めていた、ロシアタンポポ由来の天然ゴムの研究成果を発表。従来の天然ゴムと同等の性質を確認できたことから、実用化研究を加速することを発表している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- タイヤ原料のブタジエンをセルロースから直接合成、2020年代前半に実用化
横浜ゴムは、東京工業大学との共同研究により、バイオマスであるセルロースから、タイヤの原料となるブタジエンを直接合成する触媒の開発に成功した。2020年代前半を目標に実用化を目指す。 - SPring-8×J-PARC×京を組み合わせた高度タイヤ解析技術、住友ゴムが開発中
住友ゴム工業は、独自の新材料開発技術「4D NANO DESIGN」をさらに進化させた「ADVANCED 4D NANO DESIGN」の開発を進めている。大型放射光施設「SPring-8」、世界最高クラスの中性子実験ができる「J-PARC」、スーパーコンピュータ「京」を組み合わせることで、タイヤに関するさらに高度なシミュレーションが可能になるという。 - タイヤ製造プロセスを可視化、住友ゴムの新シミュレーション技術
住友ゴム工業は、タイヤ製造プロセスに用いるシミュレーション技術「Tyre Manufacturing Simulation」を開発した。この技術を使えば、タイヤ製造の各工程で起こる現象を可視化して製品の品質を正確に予測できるという。 - 転がり抵抗20%減の“超低燃費タイヤ”、ゴムのナノ構造制御で2020年に実用化へ
ブリヂストンと新エネルギー・産業技術総合開発機構は、転がり抵抗を従来比で20%低減した“超低燃費タイヤ”を実現できる「三次元ナノ階層構造制御技術」を開発した。2020年の実用化を目指している。 - バイオマス由来の合成ゴムを味の素とブリヂストンが開発、2013年度に事業化を判断
味の素とブリヂストンがバイオマス由来の合成ゴムを製造する技術を開発した。2013年度中に事業化判断を行う計画である。