転がり抵抗20%減の“超低燃費タイヤ”、ゴムのナノ構造制御で2020年に実用化へ:材料技術
ブリヂストンと新エネルギー・産業技術総合開発機構は、転がり抵抗を従来比で20%低減した“超低燃費タイヤ”を実現できる「三次元ナノ階層構造制御技術」を開発した。2020年の実用化を目指している。
ブリヂストンと新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2012年10月22日、従来よりも転がり抵抗を大幅に削減した“超低燃費タイヤ”を実現できる「三次元ナノ階層構造制御技術」を開発したと発表した。ブリヂストンは、同技術を同社の材料設計技術「ナノプロ・テック」に組み込み、従来比で転がり抵抗を20%低減した超低燃費タイヤを2020年に実用化する計画である。
転がり抵抗≒エネルギーロス
一般的に、乗用車用タイヤのゴムは、天然ゴムや合成ゴムから構成されるポリマー(高分子材料)と、カーボンやシリカ(二酸化ケイ素)などから構成される充てん剤を複雑に混ぜ合わせたものを、加硫によってポリマー間やポリマーと充てん剤の間を結合(架橋)させて製造する。
タイヤ用ゴムのエネルギーロスと耐摩耗性の関係。従来の低燃費タイヤ用ゴムの場合、エネルギーロスを低減しながら、同時に耐摩耗性を高めるのには限界があった。新技術はその限界を打ち破ることができるという。(クリックで拡大) 出典:ブリヂストン
自動車の燃費に直結するタイヤの転がり抵抗は、タイヤが転動する(転がる)ときに、結合したポリマーが変形したり、充てん剤が互いに擦れ合ったりして発生するエネルギーロスが約90%を占めると言われている。このエネルギーロスを減らせれば、タイヤの転がり抵抗が減り、自動車の燃費を向上できるわけだ。実際にブリヂストンは、充てん剤の分散状態を最適に制御できるナノプロ・テックを使って開発した低燃費タイヤ「ECOPIA」を製造・販売している。
ただし、エネルギーロスと、タイヤの寿命にかかわる耐摩耗性は、トレードオフの関係にある特性だ。充てん剤の分散状態を制御するという現在の低燃費タイヤの技術では、エネルギーロスを低減しながら、同時に耐摩耗性を高めるには限界があった。
3段階のナノ階層に分けて制御
今回の三次元ナノ階層構造制御技術では、従来の低燃費タイヤとほぼ同じ原材料を用いる。その一方で、ゴム内部におけるポリマーや充てん剤の構造を、1μm(1000nm)/100nm/10nm単位という3段階のナノ階層に分けて制御することにより、エネルギーロスの低減と耐摩耗性の向上を同時に実現できる。
まず、1μm単位の階層では、低燃費タイヤにも用いている、末端が充てん剤と結合しやすい「末端形状変性ポリマー」をさらに最適化し、ポリマーの混合状態(ポリマーブレンド)を制御することで、耐摩耗性を向上した。次に、100nm単位の階層では、専用設備を使って、充てん剤の分散状態を従来よりもさらに最適に制御してエネルギーロスの低減につなげた。最後に、10nm単位の階層では、加硫条件の最適化によって、ポリマーや充てん剤を架橋させる際の網目の分布をより均一にし、エネルギーロスを低減したという。
「三次元ナノ階層構造制御技術」の概要。1μm(1000nm)/100nm/10nm単位という3段階のナノ階層に分けてタイヤ用ゴムの内部構造を制御する。従来の低燃費タイヤ用ゴムと比べて、エネルギーロスを低減するとともに、耐摩耗性も向上できる。(クリックで拡大) 出典:ブリヂストン
実際に、同技術を適用したゴムの特性を計測したところ、現行のECOPIAのタイヤ用ゴムと比べて、エネルギーロスを44%低減するとともに、耐摩耗性能を26%向上できたという。
なお今回の技術は、NEDOの「ナノテク・先端部材実用化研究開発」の一環として、2009〜2012年にかけて開発が進められてきた。ブリヂストンの他、JSR、東北大学原子分子材料科学高等研究機構、九州大学先導物質化学研究所、産業技術総合研究所ナノテクノロジー研究部門などが参加している。
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