基幹業務を担う病院情報システムの仕組み:医療機器開発者のための医療IT入門(1)(4/4 ページ)
医療機器がネットワークを介して病院内外の医療情報システムと連携することは当たり前の時代になった。本連載は、医療機器開発者向けに、医療情報システムに代表される医療ITの歴史的背景や仕組みを概説する。第1回は、病院内の基幹業務を担う病院情報システム(HIS)だ。
医療ビッグデータやIoTが病院情報システムに及ぼす影響
図2は、データの種類/速度から見たHISのデータのマッピング例を示している。医事会計システム、人事管理システム、病院物流管理システムのいずれも、日常の定型業務から発生する構造化データが主体であり、処理のタイミングについては、日次、月次、年次といったバッチ処理が主流である。
図2 データの種類(Variety)/速度(Velocity)から見たビッグデータのマッピング例(クリックで拡大) 出典:日本クラウドセキュリティアライアンス・ビッグデータユーザーワーキングループ(2015年7月)
HISだけを見るとビッグデータに発展する可能性は小さいが、例えば、次回取り上げる予定の臨床情報システム(CIS)の代表例である医用画像情報管理システム(PACS)との間でデータ連携しようとすると状況が変わってくる。
医用画像は非構造化データが主体で、2Dから3Dへと大容量化が進んでおり、処理の速度も、バッチ処理からリアルタイム処理まで幅広いのが特徴だ。構造化データのバッチ処理を前提としたHISの運用体制のままでは対応しきれないので、PACSをつかさどる放射線部門主導でデータ連携の仕組みづくりと運用体制の構築を図る必要が出てくる。
また前述の例のように、病院物流管理システムがIoTを介してRFIDと連携しようとすると、構造化データと非構造化データの中間の性質を有するセンサーデータが入ってくることになる。一般的にセンサーデータの場合、一定量のデータがデバイスに蓄積された時点で収集/分析することが多く、バッチ処理に近いフローで対応できた。今後、リアルタイムのモニタリングが入ってきたら、データ連携の仕組みや運用体制を変更する必要が出てくる。
HISは、情報通信系技術をベースとする「診療情報管理士」や「医療情報技師」が中心的な役割を果たしてきたが、ビッグデータ/IoTの観点からは、今後、電子制御系技術をベースとする「臨床工学技士」「診療放射線技師」といった専門職と協働する機会が増えてくるだろう。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
Twitter:https://twitter.com/esasahara
LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/esasahara
Facebook:https://www.facebook.com/esasahara
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫連載「医療機器開発者のための医療IT入門」バックナンバー
- 医療従事者の暗黙知を人工知能で生かす、まずは入院時の転倒・転落の防止から
NTT東日本関東病院とUBICは、人工知能を使って電子カルテの情報を解析し、入院患者の不意の転倒やベッドからの転落などを防止することを目的にした共同研究を始めた。早ければ2015年度内にもプロトタイプシステムを導入・運用したい考えだ。 - 米医療ITシステムメーカーを買収、診療情報の一括管理システム普及に向け
富士フイルムは、米販売子会社「FUJIFILM Medical Systems U.S.A」を通じて、米医療ITシステムメーカー「TeraMedica」を買収し、100%子会社化した。 - シャープ、上尾中央総合病院へIT機能を一体化したITテレビモニターを納入
ネットサービスや業務用システムと連携し、納入先ごとにカスタマイズできるソリューション型テレビ「ITテレビモニター」を、上尾中央総合病院に納入し、運用を開始した。