基幹業務を担う病院情報システムの仕組み:医療機器開発者のための医療IT入門(1)(3/4 ページ)
医療機器がネットワークを介して病院内外の医療情報システムと連携することは当たり前の時代になった。本連載は、医療機器開発者向けに、医療情報システムに代表される医療ITの歴史的背景や仕組みを概説する。第1回は、病院内の基幹業務を担う病院情報システム(HIS)だ。
複雑な勤務体系を抱える医療機関の人事管理システム
医療・介護施設には、医師、看護師、薬剤師、放射線技師、理学療法士、作業療法士、臨床検査技師、管理栄養士など、さまざまな資格を有する専門職が勤務している。また、勤務時間や勤務体制も、病棟業務、外来業務、訪問業務など、勤務体系によってまちまちである。診療報酬や介護報酬の仕組み上、専門職の人員数、勤務時間、勤務体制の組み合わせによって事業収入の差が生じるため、人事管理システムが医療機関の事業経営に果たす役割は大きい。
また、高齢化が進行し、医療や介護に対する需要が年々増加する一方で、上記の専門職は慢性的に不足しており、離職率も高い傾向にある。医療機関の場合、新卒および中途の人事採用業務を効率化させると同時に、職員満足度を向上させて定着率を高めることが、共通の課題になっている。
さらに医療機関の場合、複数の医療従事者が交代で医療情報システムを利用するケースが多い。情報セキュリティやプライバシー/個人情報保護管理の観点から、人事管理システムは、職員の認証/アクセス権限管理のベースになるものであり、タイムリーな変更管理が要求される。
医療機関の人事管理システムの主要な機能としては、人事情報管理、給与計算管理、採用管理、福利厚生管理、出退勤管理、時間外勤務・休暇管理などがある。一般企業向けの人事ERPパッケージに医療業界向けテンプレートやカスタマイズ部分をアドオンしたシステムや、運輸/物流など、複雑な勤務体系を有する業界向けにもともと開発された人事管理システムを横展開するケースが多く見受けられるのが特徴だ。
RFIDからIoTとの接点が広がる病院物流管理システム
医療機関では、医薬品、輸血製剤、医療機器、診療材料、検査試薬、フィルム、感光薬品など、さまざまな医療材料が利用されている。新規開発の医薬品や医療機器、診療材料の導入など、製品ライフサイクルの入れ替わりも激しい。その一方で、常時過不足なく医療材料の在庫を保持し、いつでも患者や臨床現場のニーズに対応できる体制を構築しておくことが要求される。
また、2011年3月の東日本大震災直後、東北の被災地域で、医薬品、医療機器、医療材料の供給が中断して大きな問題となった。平常時よりも大規模災害発生時の方が、医療に対する需要は増えるので、事業継続管理(BCM:Business Continuity Management)と一体化した病院物流管理システムの構築/運用が求められる。
通常、病院物流管理システムで取り扱う医療材料としては、医薬品や診断材料が多いが、実際の管理責任は、医薬品が薬剤部門、検査薬が臨床検査部門、放射性医薬品が放射線部門、輸血製剤が輸血部門など、各部門に委ねられており、部門の業務プロセス管理システムと連携してくる。また、診断材料によっては、診療報酬請求上の取り扱いが異なるものがあり、医事会計システムとの連携も不可欠である。
近年、病院物流管理システムでは、医療安全の観点から、バーコード表示を利用した医薬品や材料の管理が普及しており、手術器械などの領域で、RFIDタグを利用した保管/耐用管理が行われている。欧米諸国では、RFIDでの経験やノウハウをベースに、モノのインターネット(IoT)を介した医療機器との連携に向けて実証実験を行うケースが増えている。
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