放射線を照射した際の染色体動態の変化を可視化:医療技術ニュース
東京理科大学は、植物に放射線が照射された際、細胞核内で染色体の動きが変化する様子を可視化することに成功した。相同な染色体座の接近は、DNA二本鎖切断を修復するために起きていることが示唆されるという。
東京理科大学は2015年6月3日、植物に放射線が照射された際、細胞核内で染色体の動きが変化する様子を可視化することに成功したと発表した。同大理工学部の松永幸大教授、同大大学院修士課程の平川健氏らの研究グループによるもので、同月5日号の英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
生物に放射線が照射されるとDNAに傷が生じるが、放置すると細胞死やがん化が起こるため、生命維持のために速やかに修復される。動物と違って動くことができない植物は、放射線に対して迅速に応答し、損傷を修復するとされるが、そのメカニズムについては不明な点が多いという。
今回、同研究グループでは、シロイヌナズナを用いて、放射線が照射された際の植物細胞における染色体の動きを、蛍光タンパク質を使ったライブイメージングによって解析した。クロマチン蛍光タグシステムという染色体の一部を可視化する技術により、相同な染色体座の距離を解析したところ、通常では細胞核内で一定の長さを保って離れていたが、放射線の1種であるγ線を照射すると、相同染色体は接近した。この結果により、相同な染色体座の接近は、DNA二本鎖切断を修復するために起きていることが示唆されるという。
さらに、相同な染色体座が接近するメカニズムを調べたところ、染色体構造を制御するRAD54というタンパク質が欠損したシロイヌナズナ変異体では、γ線を照射しても相同染色体は接近しなかった。
同成果は、放射線を含む環境ストレス応答時に、植物の染色体動態が変化することを明らかにしたものとなる。今後は、同成果に基づき、植物の放射線傷害へ応答する仕組みを明らかにし、放射線傷害に強い植物を作ることが可能になるとしている。
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