第37回 携帯機器のコモデティ化を実現する部品技術:前田真一の最新実装技術あれこれ塾(4/4 ページ)
実装分野の最新技術を分かりやすく紹介する前田真一氏の連載「最新実装技術あれこれ塾」。第37回は携帯機器のコモデティ化を実現する部品技術について解説する。
4.コモデティ化と部品の高性能化
25ドルスマホでは、Mozilla社と提携して、中国のファブレス企業、Spreadtrumがチップセットの開発を発表しました(図7)。
このチップセットを使ってSpreadtrumが提供するリファレンス設計の通り設計すれば、誰でも安価にスマホが設計できるというものです。
このように部品メーカーが提供する部品と設計仕様を使えば、誰でもが同じ製品を作れることを設計のコモデティ化と呼んでいます。設計が均質化されたこのようなレベルの製品では、企業の技術力の差がでません。
このような製品では、高給を取る能力の高い技術者や研究開発の必要はありません。技術力がなくても、人数が少なく賃金の安いところで、安い部品を使い、物を安く作れるEMSを使えば、大きな市場を取れます。長年にわたって多くの研究開発を行い、多くの高学歴技術者を抱える日本のエレクトロニクスメーカーでは、このようなコモデティ製品で、海外企業に競合することはできません。
しかし、ここで問題になるのは、ICメーカーから提供される、リファレンスデザインです。一般にICメーカーから提供される設計は、ICの性能を最大に発揮し、安定して動作させるため、基板設計から見ると過剰設計になっている設計が多くあります。例えば、基板層数が多くて、このままでは、基板のコストが高くなってしまったり、バイパスコンデンサが過剰に配置されていることなどです。
また、周辺のメモリなどの部品配置の間隔が広く、その他の部品を配置すると、基板サイズが大きくなって電池が配置できないなどもあります。さらに、リファレンス設計と同じに設計したのでは、競合他社と全く同じ設計になってしまいます。競合との差別化を図るためにも、リファレンス設計を改善した設計を行いたいところです。
ところが技術力がない会社では、リファレンス設計を変更した基板を設計するとうまく動作しないようになってしまうことが良くあります。ICや部品メーカーは、ICや部品単体ではなく、難しい設計の部分まで施して、モジュールかSiP化して、ユーザーはどのような設計をしても動作するような状態で販売するようになってきています。多くの場合、難しいのは電源を安定させるパスコンの数の決定や配置であったり、メモリとの接続であったり、難しいところは決まっています。
例えば、小さなモジュールやSiPには多層基板や、パスコンの内層実装を使ってもマザー基板を安価に小型化できれば、製品コストは低減できます。部品の高機能化が、製品のコモデティ化、低価格化のキーとなっています。モジュールやSiPだけでなく、システムIC自体も、セットメーカーが設計しやすくなるように、設計のコモデティ化への努力をしています。
インテルやIBMは、最新のIC内部には電源回路を組み込んだオン・チップ・レギュレータを実用化しています(図8)。
これは、CPUの動作状況に応じて電源電圧をきめ細かく制御する省電力と、基板の電源設計を簡単にする2つの効果があります。
現在のシステムICでは、内部ロジック回路用電源(コア電源)PCI ExpressやDDRインタフェースなど各種IOで異なる電源電圧など、多くの電圧電源が必要とします。 これらの異なる電圧の電源は、おのおの、多くのパスコンを使って安定化してICに供給する必要があります。多くの電源におのおの多くのパスコンを配置して、太い面配線でICの電源ピンに配線するためには、多くの層を使い、難易度の高い設計をする必要があります(図9)。
パッケージ内基板(インターポーザ基板)の配線設計では、電源/GNDのレイアウト設計がもっとも重要で、難しい設計になっています。
オン・チップ・レギュレータを備えたICでは、基板から供給する電圧は1つだけになり、その他の電圧はIC内部のオン・チップ・レギュレータで作り出します。さらに、IC内部に電源回路を持っているので、電源回路からICの電源への電源供給回路は最短で、余分なL成分がないため、電源安定性は理想的になり、ICの動作が安定します。
また、電源が1種類でよいので、ICパッケージ上に搭載するオン・パッケージ・キャパシタも1つの電源に集中して配置することができます。さらにチップキャパシタ部品の小型化、大容量化のため、オン・パッケージ・キャパシタ(図10)の容量を大きくできます。
結果として、IC電源ピンまでの距離が長く、ビアやパッケージ配線などL成分が大きく、効率が悪い基板上のパスコンの必要性が低くなり、基板上のパスコンの必要数が減ります(図11)。
このため、基板側の電源供給回路(PDN)の設計はずっと楽になり、基板層数を減らしたり、設計のコモデティ化が実現できます。
筆者紹介
前田 真一(マエダ シンイチ)
KEI Systems、日本サーキット。日米で、高速システムの開発/解析コンサルティングを手掛ける。
近著:「現場の即戦力シリーズ 見てわかる高速回路のノイズ解析」(技術評論社)
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