ZEV規制から読み解く環境対応自動車の攻防〔前編〕:知財コンサルタントが教える業界事情(19)(1/5 ページ)
トヨタの燃料電池車(FCV)関連特許無償開放の背景にあるといわれる米国のZEV(Zero Emission Vehicle:無公害車)規制。知財の専門家である筆者が「特許関連情報」と「公開情報」を中心に、技術開発・特許・技術標準などの観点からこれらの動きの背景を考察します。
知的財産(知財)を通じて、業界動向を読み解く連載「知財コンサルタントが教える業界事情」ですが、今回はトヨタ自動車(以下、トヨタ)の燃料電池車(Fuel Cell Vehicle:FCV)関連特許公開の背景にあるといわれている米国の(Zero Emission Vehicle:無公害車)規制および、それらに対するメーカー各社の取り組みなどを解説します。
トヨタがもたらした衝撃
2015年1月6日に米国の家電見本市「CES 2015」で、トヨタは「保有するFCVに関する特許を、2020年までを想定した無償開放をする」と発表しました※)。これは、自動車業界では異例なことだといえます(関連記事:燃料電池車の普及を促進、5680件の関連特許が無償に)。
トヨタの保有特許を利用するには、個別協議が必要とされています。この個別協議が、トヨタの交渉相手となる企業にとっては難しい課題となります。この協議を通じて、トヨタは相手企業との関係性に応じた企業戦略を取ることができるからです。「知的財産を活用した競争優位の戦略」を採用するか否かの選択権は交渉企業にはなく、全ての判断の主導権をトヨタが持つことになるのです。この状況はICT(情報通信技術)業界における、IBMの知的財産保有の立場と同様になることを意味しています(関連記事:恐るべきIBMの知財戦略、なぜ太陽電池に賭けるのか?)。技術としてFCVが普及する将来が実現できれば、技術進化の方向性までも規定する可能性を持っています※2)。
※2)「企業活動における知財マネジメントの重要性―クローズドとオープンの観点から」 さらなるオープン化へ(pp.418-421)を参照
EV(Electric Vehicle:電気自動車)を手掛ける米国テスラモーターズ(Tesla Motors)が、自社特許の全てを無償開放したという先例は既に存在しました※3)。しかし、テスラの事例は「新興EVメーカーのEV事業立ち上げ戦略」として認識されるべきものと考えられ、最大手企業であるトヨタとは立場が異なります※4)。
※3)Tesla Motorsブログ「自社特許を無償開放」(2014年6月11日)
※4)「企業活動における知財マネジメントの重要性―クローズドとオープンの観点から」 小規模企業の特許ライセンス戦略(pp.409-410)を参照
では、トヨタのとった行動の社会的背景には何があるのでしょうか。その背景を推察してみようと思います。
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