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ZEV規制から読み解く環境対応自動車の攻防〔前編〕知財コンサルタントが教える業界事情(19)(2/5 ページ)

トヨタの燃料電池車(FCV)関連特許無償開放の背景にあるといわれる米国のZEV(Zero Emission Vehicle:無公害車)規制。知財の専門家である筆者が「特許関連情報」と「公開情報」を中心に、技術開発・特許・技術標準などの観点からこれらの動きの背景を考察します。

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トヨタの特許無償公開の背景は?

 トヨタの行動の背景には米国のZEV(Zero Emission Vehicle:無公害車)規制があると考えられます。2013年10月24日、米国の西部2州(カリフォルニア、オレゴン)と東部6州(ニューヨーク、マサチューセッツ、メリーランド、コネチカット、バーモント、ロードアイランド)の8州は、ZEV普及のための覚書に署名しました※5)

※5)米国8州が「ZEV普及の覚書」に署名(2013年10月24日、PDF)

 2012年のこれら8州の新車登録台数は約338.6万台であり、米国全体(約1431.4万台)の23.7%を占めていたといいます。そのため、自動車メーカーにとって、ZEV推進策を無視した米国市場戦略はありえない状況になっています※6)

※6)「ZEV普及の覚書」に調印した8州の新車登録台数(ジェトロ海外調査部、PDF)米国自動車販売関連データ(R.L.Polk、PDF)

 米国の中でも、特に環境規制が厳しいカリフォルニア州では、カリフォルニア大気資源局(California Air Resource Board:CARB)が、ZEV推進策として一定台数以上を販売する大規模自動車メーカー(LVM:Large Volume Manufacturers、該当自動車メーカーはフィアット・クライスラー、フォード、GM、ホンダ、日産、トヨタの6社)に対して、2025年までにZEVの販売数量をカリフォルニア州における新車販売台数の15%とすることを義務付けています※7)

※7)カリフォルニア大気資源局の「2018年ZEV規制(PDF)

 この規制値をクリアできなかった場合には、「CARBに高額の罰金を支払う」「他社からZEVクレジットを購入する」の2つの選択肢の内どちらかを選ぶことになります。ZEV推進策は今後さらに厳格化が進む見込みとなっています。

厳格化されるカリフォルニアZEV推進策

 ZEV推進策は現状のままでも、自動車メーカーにとってはかなり厳しいものですが、規制は今後さらに厳格化されていきます。まず、2018年モデル(2017年夏頃から発売されるモデル)以降では「ZEVの定義」が次のように変わります。

  1. バッテリーのみで駆動される「BEV(Battery Electric Vehicle:電気自動車)」と燃料電池を利用する「FCV(Fuel Cell Vehicle:燃料電池車)」のみがZEVと定義されます
  2. 「TZEV(Transitional ZEV:プラグインハイブリッド車を指す)」は別ジャンルとして扱われます
  3. これまでZEVとして認められていたHybrid Electric Vehicle(HEV、HV:ハイブリッド車)は、ZEVとは認められません

 しかも、先述した大規模自動車メーカー6社については「一定台数のZEVを販売する」「それが達成できないときには、他社からZEVクレジットを購入する」ということが引き続き強制されます。基本的な枠組みは「2018年モデル」以降も変化はありません。これらのZEVに関わる規制の厳格化は、ハイブリッド車で規制をクリアしてきたトヨタのような企業にとっては大きな打撃となります。

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