日本の製造業よ、第4次産業革命で規格策定の舞台に立て:スマートファクトリー(3/3 ページ)
ドイツのインダストリー4.0や米国のインダストリアルインターネットコンソーシアムなど、世界的にICTを活用した新たなモノづくりが胎動している。その中でドイツおよび米国のプロジェクトそれぞれに参加し、存在感を示しているのが米国National Instrumentsだ。同社でこれらの活動に参加しているグローバルテクノロジー&マーケティングディレクターのラマン・ジャマル氏に話を聞いた。
次世代モノづくりにおけるNIの役割
MONOist こうした新たなモノづくりの動きの中で、NIはどういう役割を果たしますか。
ジャマル氏 IoTやサイバーフィジカルシステムを作る場合、より柔軟で適応性が高く、ソフトウェアを中心に考えたシステムを構築しなければならない。NIとしては、いくつかのアプリケーションを組み合わせて、プラットフォームベースでこれらの要素を満たすシステムを提供している。サイバーフィジカルシステムを構築するにはプラットフォームベースのシステム構築アプローチを取らなければならない。
プラットフォームベースの特徴はオープンであることだ。オープンであれば、さまざまな汎用品を組み込んで利用できる。またさまざまなIPを組み込み、モジュールを必要に応じて入れ替えられる。これらにより変化に容易に対応でき、機能や性能を自由に変えることができる。プラットフォームベースのシステムを提供することで、ユーザー企業はアプリケーションに集中でき、下位のハードウェアに捉われないで開発できるようになる(関連記事:産業用IoTに狙いを定めるNI、主力の「LabVIEW」プラットフォームを武器に)。
例としてアップルのiPhoneが挙げられるだろう。iPhoneのハードウェアやアプリを組み込む仕組みをプラットフォームだと考えると、さまざまなアプリによって機器の性質や性能を変えることができる。また、その柔軟性によって、さまざまな他のサービスや機器と連携した使用が可能だ。物理領域によるセンシングと、ICT環境へのデータ送信、分析後の制御など、多くの作業を多くの機器や機能などと連携しなければならないサイバーフィジカルシステムの実現には、これらのプラットフォームとしてのアプローチは重要な要素を占める。
エアバスの「未来の工場」に貢献
MONOist 実際に先進的なモノづくりでNIのソリューションが活用された例はありますか。
ジャマル氏 フランスのエアバスが取り組んだ「未来の工場(Factory of the future)」プロジェクトにおいて、NIのシステム開発アプローチが利用された例がある。このプロジェクトはインダストリー4.0プロジェクトそのものに入っているものではないが、インダストリー4.0の動きを意識して取り組まれたプロジェクトで、同様のコンセプトの先進工場実現を目指している。NIは、その中でNI SOM(System on Module)により、各工程で正しい作業が行われるような「スマートツール」の開発支援を行い、その開発時間の短期化を実現した(関連記事:エアバスの“スマート工場プロジェクト”支える開発システム、NIが展示)。
航空機は400万以上の部品で構成されており、ねじ穴の数は40万カ所以上、締め付け工具の数は1000以上に及ぶという。これらの作業をいちいち作業員が覚えて、作業するのは大変な作業だ。実際に作業が複雑なことによるミスや、それを発生させないためのチェックの作業などが負担になっていた。これらを支援するスマートツールを開発することで、この作業者の負担を減らすことが可能になる。ただ1000にも及ぶ工具を全て開発するのは難しかった。これをNIのプラットフォームで支援し開発時間を10分の1に削減することに成功した。
またIICでテストベッド(試験用プラットフォーム)として取り組む「Track and Trace Testbed」にも参加している。これは航空機の製造工場をイメージしたテストベッドだ。エアバスでの事例と同様、このテストベッドでも、スマートハンドヘルドツールのデータを収集し、適切な使用方法を確保するための試験を行っている。
NIは、IICにもインダストリー4.0の活動にも参加している。またITの領域とモノの領域を両方に関わるプラットフォームを提供できるユニークなポジションにある。この新たなモノづくりの動きを今後も支援していく。
第4次産業革命は日本の製造業に何をもたらすのか――「インダストリー4.0が指し示す次世代工場の姿」コーナーへ
インダストリー4.0がもたらす製造業の変化
ドイツ政府が推進する国家プロジェクト「インダストリー4.0」。その目指すところは、現在よりも一段と高度化した生産システムです。同様のモノづくりのさらなる高度化に向けた取り組みは、米国や日本などでも巻き起ころうとしています。「インダストリー4.0が指し示す次世代工場の姿」特集では、「インダストリー4.0」が目指す姿や標準化の道のりなどを追うとともに、日本で高度な生産方法や生産技術に挑戦する動きを取り上げています。併せてご覧ください。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 自動車開発のV字プロセスの左から右まで、「テストの自動化」を実現する
2013年4月から、自動車分野に特化した営業部である「オートモーティブ営業部」を発足させた日本ナショナルインスツルメンツ(日本NI)。同社として、1つの産業分野に特化した営業部を設立するのは初めてのことだ。その背景と狙いについて、同社社長の池田亮太氏と、オートモーティブ営業部の部長に就任した片野唱栄氏に聞いた。 - ドイツが描く第4次産業革命「インダストリー4.0」とは?【前編】
「インダストリー4.0(Industrie 4.0)」という言葉をご存じだろうか? 「インダストリー4.0」は、ドイツ政府が産官学の総力を結集しモノづくりの高度化を目指す戦略的プロジェクトだ。インダストリー4.0とは何なのか。同プロジェクトに参画するドイツBeckhoff Automationグループに所属する筆者が解説する。 - 産業機器向けIoT団体「IIC」、その狙い
IoTに力を入れるIntelだが、IoT団体としてしては「Open Interconnect Consortium」(OIC)と並行して「Industrial Internet Consortium」(IIC)も設立、積極的に関わっている。そのIICの狙いを説明する。キーワードは「Industrial Internet」だ。 - ドイツ製造業の危機感が生んだインダストリー4.0、日本はどうすべきか?
ドイツ貿易・投資振興機関は今回で10回目となる「日独産業フォーラム 2014」を開催。今回はテーマを「インダストリー4.0」とし、同分野の研究の第一人者と見られインダストリー4.0プロジェクトにおける技術イニシアチブ「スマートファクトリーKL」の会長を務めるデトレフ・チュールケ氏が基調講演に登壇した。同氏の基調講演の内容とインタビューをお伝えする。 - テーマサイト「インダストリー4.0が指し示す次世代工場の姿」