新生VAIOはモノづくりで何を変えたのか:モノづくり最前線レポート(2/2 ページ)
ソニーから独立したVAIOは、独立後初めてゼロから開発した製品群を発表した。従業員規模がグローバルで全社員合わせて14万人規模の企業体から、240人規模の会社になる中で、モノづくりの手法も大きく変化した。「全社員がみんなで作り上げた製品だ」(VAIO 代表取締役の関取高行氏)とする取り組みの中で、どういうモノづくりのアプローチで新製品を実現したのかについて紹介する。
ポイントとなった“共創”
これらを核としつつ、新たな取り組みを進める上で最も大きな変化をもたらしたのが、他社や顧客と共同でモノづくりを開発する“共創”の考え方だ。
同社は、ODMモデルも含めた全モデルの最終仕上げと品質チェックを長野県安曇野市の本社拠点で行う「安曇野FINISH」体制を構築。商品企画段階から回路設計者やメカ設計者、製造技術者、製造担当者、品質保証担当者、生産技術者、サービス担当者が一堂に集まり、一体となってモノづくりを行い、「MADE IN AZUMINO JAPAN」を価値として提供していく方針としている(関連記事:“みんなここにいる”の強さ――長野発「ソニーのVAIO」が尖り続ける理由とは)。これらの体制が「全員で作り上げた」(関取氏)ということにつながるわけだが、自社内だけに限った話ではなく、顧客やパートナー企業とより深い関係を築こうとしていることが従来との大きな違いとなる。
“共創”で特徴的なのが新製品「VAIO Z Canvas」の商品化に向けた動きだ。同製品はクリエーター向けPCとして絞り込んだ特徴を持った製品だが、「VAIO Prototype Tablet PC」として、開発の初期段階から一般公開を行い、さまざまな展示会などに出展してきた。またイラストレーターやアニメーター、漫画家などにも積極的に貸し出しを行い、実務に基づいた意見を吸い上げて商品化を実現した製品だ。
「VAIO Z Canvasは、モノづくりのプロセスとして新たなチャレンジを行った。従来の開発プロセスでいくと、顧客の声を実際に聞く機会は製品企画前の『調査・基礎開発』段階でしかなく、ここを通過した後はメーカーの思い込みでモノづくりを進めて発売してしまう可能性がある。しかし、VAIO Z Canvasは、試作段階で公開を進め、フィードバックを得てさらに新たな試作を行い、また公開するというサイクルを繰り返したために、顧客のニーズにより近い製品開発ができた」と伊藤氏は述べている。
顧客ニーズとのすり合わせ回数を増やす手法は、BtoB製品では当然のものだが、BtoC製品においても、ベンチャー企業などの間では一般化しており、クラウドファンディングなどもその手法の1つとして利用されている状況がある。しかし、大手企業ではこれらの大胆に顧客の声を取り入れる手法は難しく、その意味では新たなモノづくりプロセスの実現は、独立したからこそ実現できたといえる。
開発段階からの共同開発
もう1つの“共創”が、「VAIO Z」での積極的な部品供給先との共同開発だ。VAIO Zは「ただの国産ではなく、まさに日本代表だ」(伊藤氏)とするように、国内の多くの部品メーカーと共同開発したパーツが搭載されている。例えば、流体動圧軸受ファンでは日本電産、静音キーボードでは沖電気工業、筐体のUDカーボンは東レ、ブラスト加工アルミは東陽理化学研究所、液晶パネルがパナソニック液晶ディスプレイと共同開発を行ったことで実現したものだ。
これらのパートナー企業と開発段階からより深い協力を進めることで、製品の差異化につなげている。
VAIOでは設立会見時にも最先端技術を積極採用してPCの新たな価値創出に取り組んでいく方針を示していたが、“共創”を進めることで、これらの取り組みを具現化したといえる。
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