最後発のPCベンチャー「VAIO」が選んだ“切り込み隊長”として生きる道:製造マネジメントニュース
ソニーのPC事業を継承した「VAIO株式会社」が始動し2014年7月1日、事業説明会を開催した。
ソニーのPC事業を継承した「VAIO株式会社」が2014年7月1日、始動した。東京都内で開催した事業説明会で、VAIO 代表取締役社長の関取高行氏は「PCの本質を追求する。『本質+α』が新会社の哲学だ」と語っている。
ソニーは2014年2月に、「VAIO(バイオ)」ブランドで展開していたPC事業を日本産業パートナーズ(以下、JIP)に売却することを発表(関連記事:ソニー、PC事業を売却してもテレビ事業を分社化してもなお、見えない光)。同事業を継承するためにJIPが新たに設立したのが新会社の「VAIO」だ。新会社の本社は長野県安曇野市で、出資金は10億円。95%をJIP、5%をソニーが保有する。従来は1000人以上の従業員を抱えていたが、再出発する従業員数は240人。これらの人員で、国内向けPCの開発・生産・販売を行う予定だという(関連記事:新社名はズバリ「VAIO」――ソニーがPC事業譲渡正式契約を締結)。
「本質+α」の哲学
この状況の中で、関取氏が新会社の哲学として強調したのが「本質+α」だ。関取氏は「本質とはそのものが根本的に持つ性質のこと。PCの本質に真摯(しんし)に向き合い、追求していくことで何らかの新たな付加価値を生み出す。これが新会社の使命だ」と語る。PC市場は成熟が進み、タブレット端末やスマートフォンへの置き換わりが進んでいるが「PCはなくならない。Web閲覧やメールなどはタブレット端末やスマートフォンでもできるが、生産性高く作業を行ったり、クリエイティブな作業を行う時にはPCが必需品であることは変わらない」と関取氏は力強く語る。
今回新会社で従来ソニーで販売していた「VAIO Pro (11.6型、13.3型)」、「VAIO Fit(15.5型)」を継続的に販売していくことを発表。関取氏は「当面は日本を中心に展開しこの2シリーズ3モデルを発売する」と話す。また販路としては、販売総代理店としてソニーマーケティングと契約したことを明らかにした。法人向けルートの代理店としては、大塚商会、シネックスインフォテック、ソフトバンク コマース&サービス、ダイワボウ情報システムを通じて販売を展開する。「今すぐに販売の結果を出すことを考えた場合、最もVAIOを売る力があるのがソニーマーケティングだった」と関取氏は語る。
製販一体開発と「安曇野FINISH」
さらにモノづくり面では、長野県安曇野市の本社拠点でもある旧ソニー長野ビジネスセンターでの製造方法をさらに強化。通常のモノづくりは、商品企画から試作、量産など順次受け渡しながら作業していくが、VAIOでは商品企画段階から回路設計者やメカ設計者、製造技術者、製造担当者、品質保証担当者、生産技術者、サービス担当者が一堂に集まり、一体となってモノづくりを行う。これにより、製品企画当初からさまざまなアイデアを集め、差別化を生みだすことを追求していくという(関連記事:“みんなここにいる”の強さ――長野発「ソニーのVAIO」が尖り続ける理由とは)。
さらに、PC製品では外部に設計・開発・生産を委託するODM(Original Design Manufacturing)製品なども多いが「ODMモデルも含めた全モデルの最終仕上げと品質チェックを安曇野で行う『安曇野FINISH』の体制を実現する」と語る。
“切り込み隊長”となることで規模の論理からの脱却を
ソニー時代のPC事業は、従業員数1000人以上が携わり、グローバルで年間560万台(2014年3月期)の販売を行っていたという。しかし、新会社は当面は国内のさらに直接販売を中心にするため2016年3月期で年間販売台数は「30〜35万台程度」(関取氏)としており、販売規模は大幅に減少する見込みだ。
PCは早期からコモディティ化が進み、差別化が難しくなったことからEMSによる生産委託が台頭した分野だ。部品なども標準部品が占める割合が高い。受注生産ではない限り少量生産で利益を出すことが非常に難しい製品ジャンルだといえる。
グローバルの販売関連費用や、販売店との取引関連費用は不要となるため、これらのコストは大きく抑えられる。その他固定費については「まだ削減できる余地がある」(関取氏)として、コスト改善は進む可能性がある。しかし一方で、部品調達の難しさは事業全体のすう勢を決めるほどの大きな課題だ。「PCは規模の論理の働く領域も多いため、調達力についてはチャレンジポイントだ」と関取氏は語る。
部品調達の課題についてVAIOは主に2つのことに取り組んでいくという。1つ目は、標準部品とカスタム部品の採用を精査し、差異化につながらないものについて標準部品の比率を高めることだ。さらに標準部品についてはODMパートナーとの協力で同パートナーの持つ調達力を生かした部品調達に取り組んでいくという。「従来は標準部品を使うところ、カスタム部品を使うところ、の判断が中途半端になっていた部分があった」と関取氏は述べる。
2つ目が、最先端技術の積極採用だ。始動に際しても、インテルや日本マイクロソフトがエールを送るなど、新たなPCの可能性に挑戦するVAIOへの期待は大きい。関取氏は「パートナーとどのようにウィン・ウィンの関係を築くかが重要だ。技術を持つパートナーと協力して新たな技術を生かす製品をいち早く市場投入していく。そして、新たな市場を切り開くチャレンジを進めていく」と関取氏は語る。
PC市場は成熟が進み、新たな魅力ある製品が生まれにくくなっている。その中で、新たな部品を採用し、新たな市場の可能性を切り開くようなチャレンジも少なくなってきているのが現状だ。いち早く新しい技術のキーデバイスを採用することで、独自の技術力で魅力ある製品に仕上げて、市場を活性化する。このサイクルを築けば、VAIO自身はキーデバイスを安く仕入れることができ、調達力のなさをカバーできるというシナリオだ。関取氏は「とんでもないけどちゃんと商売ができる。そんな製品を作る」と話している。
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