タカタのエアバッグ問題が示唆する今後の自動車開発のリスク:和田憲一郎の電動化新時代!(14)(3/3 ページ)
報道が過熱する一方で、原因特定や今後の見通しが不明のタカタ製エアバッグ問題。自動車の内装設計技術者として、インパネや助手席用エアバッグの開発に携わったことのある和田憲一郎氏に、今回のような問題が起きる要因や、今後の自動車開発の課題について整理してもらった。
4.部品交換が容易でない
エアバッグは、ブレーキパッドやワイパーのように消耗品でないことから、組み付け性を重視して設計されている。最近は、アセンブリ工程を減らすため、モジュール開発が多く採用されており、助手席用エアバッグなどもインパネASSY(複数部品から構成されるユニット)の一部品として車体に組み付けられている。
それだけに、助手席用エアバッグのみ交換することは容易ではない。既に設計配慮済みの構造があるかもしれないが、インパネASSYを取り外すとなると、100kg前後となる重量物をクルマから降ろさねばならず、現地の販売会社にとっては大変負荷の大きな作業となる。また、結線処理など、二次的な不具合が起きないような慎重な作業が求められる。
5.部品交換までの事故に対する懸念
今回のように、多くの自動車メーカーで数百万台と一斉にリコールを発動する場合、部品供給が追い付かず、部品製作だけでも2〜3年、交換まで含めると4〜5年要するのではと懸念される。その間、エアバッグ装置をオフ設定にすることは可能であるが、もし事故が発生した場合の責任の所在が問題となる。
助手席用エアバッグの場合、できる限り後席に乗るという対応で回避することも可能だが、運転席では防ぎようがない。作動を長期間オフにする問題をどうするか。また、どのようにユーザーに浸透を図るかの問題も出てくる。
今回の件から、今後の自動車開発に向けて、次のようなアクションが必要になってくるのではないかと考える。
- 自動車メーカーは、これまでエアバッグサプライヤのインフレータは固有の商品であることから、それ以外のバック形状や取り付け構造に注目して検査を確認してきた。しかし、車両と一蓮托生であることがより明らかとなったため、基幹部品であるインフレータの製造方法についても関与せざるを得ない
- エアバッグのトラブルが多発しているため、今後は不具合があるかもしれないことを前提として、交換が容易なように設計手法を改めていく必要がある
- 今回の被害が拡大した一因として、2005年に発覚してから多くの時間が過ぎていることが挙げられる。市場不具合に対してより感度の高い対応が求められる
- エアバッグサプライヤは、インフレータなど基幹部品について、自社での品質管理体制を強化するだけでなく、自動車メーカーもしくは専門機関からの協力を仰ぐことも必要ではないだろうか
筆者紹介
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。
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