サムスンを縛ったFRAND宣言とスマートフォンOSの覇権争い:知財専門家が見る「アップルVSサムスン特許訴訟」(2)(3/3 ページ)
知財専門家がアップルとサムスン電子のスマートフォンに関する知財訴訟の内容を振り返り「争う根幹に何があったのか」を探る本連載。第2回では、訴訟の重要なポイントとなったサムスン電子のFRAND宣言と、スマートフォン基本ソフト(OS)の動向について解説します。
進むスマホ基本ソフトのパッケージ化
携帯電話端末は半導体プロセスの進歩による高集積化によって、さまざまな部品や機能がパッケージ化されています。2000年代初頭以降、回路、ベースバンドIC、アプリケーションプロセッサ、メモリなどを1つのICに統合するワンチップ化やソフトウェアも含めて機能を1つのICに統合するカプセル化が急速に進みました。
ワンチップ化やカプセル化は、階層(レイヤー)の異なるコア技術をパッケージ化したものと考えることができ、そのレイヤーの積層度により、パッケージ機能の高低が決まります。ある意味でこれは「縦型のレイヤー標準」ということができます。
このような標準技術のパッケージ化は、技術プラットフォームや開発支援ツールの充実と関係し、従来とは異なる産業発展を促します。従来の携帯端末のメインプレーヤーだけではなく、インフラ技術の蓄積の少ない新興国の端末メーカーでも携帯端末市場に参入できるような事業環境が整うからです。
言い換えますと、基本ソフトを含む標準技術がパッケージ化され、それをプラットフォームとして利用できるようになると、資本があれば誰でも標準機能を搭載した低中級のスマートフォンが製造できるようになるのです。
このことは、1990年代の終わりから2000年代にかけての主要メーカーの顔ぶれを見れば明らかです。90年代後半の携帯電話端末の主要プレーヤーは、ノキア、モトローラ、エリクソンという伝統的な製造メーカーでした。それが2000年代初頭からは、サムスン、LGの韓国勢が加わり、5強の時代となります。しかし、2000年代末になると、絶対的な市場シェアを保持していたノキアが後退し、リサーチ・イン・モーション(RIM)、アップル、マイクロソフトなど米国の新興のベンチャー企業がプレーヤーとして登場します。彼らは、製品設計は行うが自らは製造しない「ファブレス」のビジネスモデルを採ることで知られています。
また、ファブレスの受け皿としてこれまで下請けの地位にあったアジアの新興企業も、カプセル化した標準技術を使用して自らのブランドで市場参入もできるようになったのです。現在の中国メーカーの躍進もこれらの状況が背景にあって、ということがいえるでしょう。
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第2回では、今回の知財訴訟において重要なポイントを握ったサムスンのFRAND宣言と、スマートフォンにおけるOSの覇権争いについて、説明しました。第3回では、今回解説した点も踏まえつつ第三勢力の台頭を背景に「訴訟取り下げの理由」について解説したいと思います。(次回に続く)
筆者プロフィル
藤野仁三(ふじの じんぞう) 東京理科大学院 知的財産戦略専攻(MIP) 教授 Webサイト(http://www.jinzofujino.net/)
福島大学経済学部卒。早稲田大学大学院法学研究科修了(経済法専攻)。日本技術貿易株式会社および米総合法律事務所モリソン・フォースター東京オフィスにてライセンス契約、海外知財法制調査、海外訴訟支援などを担当。2005年から東京理科大学専門職大学院MIP教授。専門は技術標準論と米国特許法。著書に『知財担当者のための実務英文入門』、『標準化ビジネス』(共編著)、『米国知的財産権法』(訳書)、『よくわかる知的財産権問題』、『特許と技術標準』がある。東京大学情報理工学系研究科非常勤講師。
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