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効果的な原価低減推進の考え方【前編】実践! IE;磐石モノづくりの革新的原価低減手法(4)(4/4 ページ)

革新的な原価低減を推進していくための考え方や手法について解説する「磐石モノづくりの革新的原価低減手法」ですが、今回から3回にわたり「効果的な原価低減推進の考え方」についてお伝えします。

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在庫や仕掛品を減らしていくにはどうすべきか

 それでは、在庫や仕掛品を減らしていくにはどうすればいいのでしょうか。まず、基本的には、在庫や仕掛品は全てを諸悪の根源と考えることが重要です。次に、それらの在庫量を見直し、自工程の仕掛かり手持ち量を下げた、取りあえずの基準量を決めます。残った仕掛かり在庫は、それを造った前工程に返すことから始めましょう。次に、以下の項目の改善にチャレンジしていきます。その際、大切なことは“在庫・仕掛かりゼロ”にこだわりつづけ、胆力を持って成し遂げるということを忘れないことです。

平準化生産

 生産するモノ(流れに結び付いているモノ)の量を平均化し、種類も平均して流す。

段取り替え時間の短縮

 まず、小ロット化する。ロットを小さくすることで段取り回数が増加してしまう分、1回当たりの段取り時間を短縮する。最終的には「シングル段取り(9分以下)」や「サイクル時間内段取り」を目指す。

小ロット運搬

 多数回運搬、水すまし(タクシー方式)などで、小ロットで運搬する。

機械設備の信頼性

 故障、チョコ停、異常は、即ラインを止めて、その原因をつかみ対策を実行する。日常、発生する設備故障やチョコ停を、そのままにせず、すぐにその原因を調べて対策を施していく努力を積み重ねていくことが重要だ。それにより、機械設備の信頼性を向上させていく。目標は異常が発生したら自ら停止する「自働化設備」に改善する。

 よく見られる失敗例に、機械設備へのパトライト設置などによって、その稼働状況を「見える化」したものの、パトライトの設置が目的になっているケースだ。結果的にパトライトが点灯しても、そのまま放置している現場が多く見られます。「見える化」は、改善していくために現在の状態を明らかにすることが目的です。従って「見える化」した後は、異常ライトの点灯数が減少していくようにアクションと点灯数の管理をしていかなければ、この「見える化」は、全く意味の無いことになってしまいます。

不良の撲滅

 不良や異常の発生は即ラインを止めて、すぐにその原因をつかみ、即座に対策を実行して再発を防止し「不良・異常の発生ゼロ」を目指す。

  1. 同じ条件で繰り返し作業をする(条件と手順の標準化)
  2. 流れ生産にして作る順序を変えない(順列生産や1個流し)
  3. 加工の直後で検査をする(作った人が検査する)
  4. ポカヨケ治具を考える(ケージで押さえる)

 今まで不要なモノも造っていた生産体質から平準化生産を前提とした、「要るモノだけ作る生産体制」に乗り換えるということは、過剰な生産能力を削減するということになります。言い換えると、各作業者の作業の中から余力(ムダ働き)部分を除き、作業の再設計を行うことで、最少人員よる生産体制とすることです。また、生産量の変動に応じて作業人員をその都度増減し、効率的に人を配置していかなければなりません。そのためには、各作業者がさまざまな作業に習熟している“多能工化”が必要となってきます。

 なぜなら、生産量が半分となったとしても作業者が依然として1つの作業しかできなければ、作業の再編や1人作業にすることができず、利益に結びついた原価低減には至らないからです。ある作業が1人の作業者にしかできないということもよくあることですが、この場合その人は年休も取れません。1人の人がさまざまな仕事を覚えることは、その人の成長欲求に応えることであり、モチベーションの向上にもつながっていきます。多能工の育成は、計画的な作業ローテーションや1人が3種類の作業習熟を目指した前後工程間での技術交流が有効です。

◇     ◇     ◇     ◇

トヨタ生産方式の“まね”に惑わされるな

 以上の改善方法は、JIT(Just In Time)生産方式をベースとした考え方です。バブルが弾け、日本の経済がどん底にあった頃も、トヨタ自動車(以下、トヨタ)は目覚しい売上高の伸びと高収益を記録していました。トヨタ生産方式(TPS:TOYOTA Production System)の良さを内外に示したこともあり、トヨタ生産方式(TPS)やJIT生産方式は生産性向上と同意語となるほど普及してきました。

 カンバン方式、7つのムダ排除、平準化、セル生産、Uライン、自働化など、トヨタからの情報(実際には、トヨタとは無関係のコンサルタントの作った用語も多い)が氾濫しています。“形”ばかりのまねによって、短期的に、少しばかり生産性が上がった企業もありました。

 しかし、トヨタ生産方式(TPS)の“形”の「物まね」で終わってはなりません。先行事例として参考にし、トヨタ生産方式(TPS)の哲学や考え方を学び、「“形”の物まね」から脱却し、自社に適した生産方式の構築をすべきだと考えます。その際、最も重要なことは、トヨタの理念でもあった「少ない設備・少ない投資、全員でカイゼンする」に立ち返ることです。

 トヨタの改善活動では、SQC(Statistical Quality Control:統計的品質管理)、TQC(Total Quality Control:総合的品質管理)、IE(Industrial Engineering)などの科学的な理論を学習し活用して、独自の生産方式を作り出したといわれています。これらを模範として、自らにあった生産方式を生み出す必要があります。さらに、忘れてはならないことは「人がやりがいを感じられる職場の環境作り」です。改善は常に“人”が中心となるため、“人”の気持ちに配慮していくことが、生産性向上のカギを握ることをあらためて考える必要があります。

筆者紹介

MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)

日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、および日本IE協会、神奈川県産業技術交流協会、県内外の企業において管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。




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