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海外法人の“損益だけしか見えない”経営では、ビジネスチャンスはありません中堅製造業のためのグローバルERP入門(1)(2/2 ページ)

日系製造業にとってグローバル化が避けられない環境になる中、中堅・中小クラスの製造業でもグローバル拠点の設立が必要とされるようになってきました。しかし、大企業と異なり、より効果的に、経営状況が適切に見える仕組みを導入しなければ中堅以下クラスの製造業にとっては勝ち目がありません。そこでより効率的にグローバル対応を進める仕組みとしてERPが再び脚光を集めています。本連載では、中堅製造業を対象にグローバルERPの価値と、失敗しない導入の仕方を解説します。

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グローバル企業に有効なERPとは

 これらの課題を解決するための有効な手段の1つが、ERPの活用です。

 ERPとは、「Enterprise Resource Planning」の頭文字を取ったもので、企業全体の経営資源を統合的に管理し、有効活用するためのシステムの総称です。従来の基幹システムは、販売管理や生産管理、会計などの個別業務の自動化・効率化を目的に導入されてきました。しかしERPでは自動化・効率化だけでなく、経営管理情報の提供という側面も重視するようになっています(図2)。

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図2:一般的な業務システムとERPによるシステムの比較(クリックで拡大)

 また、ERPは「パッケージ製品」と呼ばれる既製のシステムであることも特徴だといえます。企業が求める要望に従ってプログラムを一から開発するのではなく、既に組み上げられたシステムに対して、パラメータと呼ばれる各種項目を設定することで、その企業で使えるシステムを構築するというものです。

 グローバル環境でビジネスを展開している欧米企業では、IT基盤としてのERP導入は当たり前になっています。日本でも1990年代後半からERPを導入する企業が出てきましたが、当時は資金に余裕がある大企業しか導入できませんでした。2000年代中盤になると、大企業中心であったERP導入企業が、少しずつ中堅企業にも広がってきました。

 大企業への導入が一巡した結果、大手のERPベンダーが中堅企業をターゲットに製品ラインアップを拡張し、国内ベンダーでも中堅企業に向けた製品が開発されています。10数年前と比べ、対象となるERP製品も増え、導入費用も安価になっており、中堅企業でもERPを導入できる環境が整ってきたといえるでしょう。

 実は、ERP導入に関しては、大企業よりも中堅企業の方が適しているといえます。大企業では、業務が専門化・細分化しているためシステムも複雑化する傾向があり、既成のパッケージシステムであるERPとは形が合わず作り変えなければならない場合が多いです。一方の中堅企業では、ビジネス構造がシンプルであるため標準的なERPの機能にフィットしやすく、ERPの効果を最大限に活用できるケースも多くあります。ERP導入によって経営状態が可視化されることにより、中堅企業の強みである機動性や俊敏性が発揮され、環境変化の激しい昨今の経営環境において、強力なアドバンテージを生み出すことが可能となるのです。

グローバル企業におけるERPのメリット

 あらためてグローバルに事業展開する中堅企業がERPを導入するメリットを整理してみましょう。

 最大のメリットは、冒頭で触れたグローバルビジネスへの対応です。グローバルで導入実績のあるERP製品は、さまざまな国で利用できるように作られています。具体的には、日本語だけでなく英語や中国語など、利用ユーザーに合わせて言語を切り替えられます。また、取引通貨も自由に選択できます。各国の独自の法制度や商習慣についても、標準機能として備えている製品が多くあります(日本では、月締め請求書や手形管理、銀行振込用のデータ出力などの機能が該当します)。従って、ERPを用いて、基本となるシステムを構築しておけば、海外拠点が増えた場合にでも、比較的容易にシステムを展開することができるようになります。

 次のメリットとして、複数法人の管理機能があります(マルチカンパニーと呼ばれる機能です)。マルチカンパニー機能を利用すると、同じシステム上で、同じマスター体系(得意先や勘定科目、製品など)を用いて、情報を把握できます。例えば、売上高を把握する場合でも、日本の本社だけでなく海外拠点の売上高の金額や数量を同時に確認できますし、グローバルで売上高上位10社を抽出することなども容易にできます。また、ある製品の拠点別での受注残や在庫数など、会計情報以外も管理することができます。

 従来のスクラッチ開発(一から自前で行うシステム開発)では、上記のようなメリットを享受するシステムを構築するには、膨大な費用と期間が必要になっていました。しかし、最近ではERP製品を活用することにより、中堅企業でも投資可能な金額で、このようなシステムを構築することが可能になってきているのです。

次回は?

 今回は、グローバル展開する中堅製造業にとってのERPのメリットを紹介しました。グローバルに事業展開する中堅企業にとって多くのメリットがあるERPですが、大企業も含めて、十分に活用できている日本企業はそれほど多くありません。次回はERP導入に向けて必要になる「グローバルガバナンス」について解説します。ERP導入に伴い検討すべきガバナンスの内容について具体的に整理し、業務設計やシステム統制のレベルとプロジェクト推進への影響について説明します。

次回へ続く

筆者プロフィル

阿部武史(あべ たけし) スカイライト コンサルティング シニアマネジャー

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大手製造業企業で社内SE、大手SIベンダーでERPコンサルタントを経験し、スカイライトコンサルティングに入社。大手企業からベンチャーまで、幅広い会社に対してのコンサルティングを実施。経営管理領域を中心に、IT戦略立案から全社的な経営改革、業績管理制度の構築、業務改革、システム導入、新規事業の立ち上げなどのプロジェクトに携わる。中小企業診断士。


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