「これが新しいVAIOです」――ソニーPC事業の失墜と新会社に求められる新たなVAIOブランドの確立:本田雅一のエンベデッドコラム(27)(4/4 ページ)
なぜ、ソニーは「VAIO」ブランドを手放すことになったのか――。モノづくり現場を数多く取材してきたジャーナリスト・本田雅一氏が関係者への取材を基に、VAIOの運命を変えた方向転換について掘り下げる。そして、新会社に求められる“新しいVAIOブランド”の方向性を考察する。
(昔の)ソニーのVAIOではなく、新たなVAIOを確立できるか
現時点でJIPの方針は伝わってきていないが、VAIO事業部に所属する社員には、新会社の事業方針や製品、ブランドコンセプトは、VAIO事業部からの移籍組が自由に作っていけると説明されているようだ。「金は出すが、口は出さない」が、どこからどこまでの話なのかは分からないが、当面は移籍組が新しいVAIOを作り上げていかねばならない。
新会社では海外での販売は(少なくとも当面の間は)行わず、日本国内向け製品のみのPCメーカーとして再生することになる。2013年の日本国内での販売台数は約76万台程度とみられており、生産規模は一気に10分の1の規模に落ちることになる。ソニーのバッジを失い、生産規模も小さくなるVAIOが、今後も“普通のパソコン”であり続けるならば、復活することは難しいだろう。
新会社には既存のVAIOモデルのラインアップから、15インチクラスの普及型ノートPCのラインと、薄型ノートPCのVAIO Proのライン、それに2014年後半に向けて開発中の新シャシー(VAIO Fit Aに近いマルチフリップスタイルの薄型・軽量機とのウワサ)の3つが持ち込まれる見込みと聞いている。
また、One Sonyの下に集められていたソニーの要素技術やノウハウも、ソニーとの関係が疎遠になれば、今までと同じように活用できない可能性もある。ソニーグループ全体でVAIOの価値を高めていくのではなく、単独のPCメーカーとしての独自の価値を出していかねばならない。それが可能か否かは、新会社を構成する“人”にかかっている。
社内向けに発表された移行プログラムでは、新会社の幹部にVAIO&Mobile事業本部 本部長でソニー業務執行役員の赤羽良介氏が移籍することが決まっている以外、確定したメンバーはいないという。しかし、移行プログラムは以下のようなもので、開発の中心メンバーはほぼ同じとなるだろう。
- ソニーの中にVAIO事業の移行部署が作られ、約150人が社内異動(社内での異動であるため、異動を拒否する場合は自己都合退職となる)
- 新会社への移籍を希望する社員も、新会社準備のために作られる部署へ異動できる
- 上記の過程を経て移行部署は、JIPが設立する新会社に売却される
- 新会社の給与体系は現時点のものをそのまま引き継ぎ
なお、上記の移行部署へ行かない900人前後の社員は、
- 社内異動による新たなポスト(VAIO事業部所属社員を受け入れるためのポストも用意される)
- これまで販売してきたVAIOのサステイニング部門への配属
- 36カ月分の割り増し退職金による早期退職プログラムへの応募
といった道のいずれかを模索することになる。
さて、こうして新たに組織される新会社が向かうべき道は、かつてのような“プレミアムパソコン”への回帰だろう。しかし、AV機器メーカーである“ソニーのパソコン”ではなく、“PCメーカーとしてのプレミアムパソコン”でなければならない。
新会社に持ち込まれるであろう機種をみると、15インチクラスの普及型ノートPCを生産パートナーに委託生産し、企業向けの営業を強化してボリュームを出しつつ、安曇野でモバイル系の独自性が高いノートPCを生産していくのではないかと考えられるが、本当の勝負は新会社で企画・開発される2015年以降の製品だ。
そこで、「これが新しいVAIOです」といえる製品が果たして生まれるかどうか。主要な開発チームに変化はないとみられるだけに、経営サイドがいかにエンジニアたちの力を引き出せるかが鍵となるだろう。
筆者紹介
本田雅一(ほんだ まさかず)
1967年三重県生まれ。フリーランスジャーナリスト。パソコン、インターネットサービス、オーディオ&ビジュアル、各種家電製品から企業システムやビジネス動向まで、多方面にカバーする。テクノロジーを起点にした多様な切り口で、商品・サービスやビジネスのあり方に切り込んだコラムやレポート記事などを、アイティメディア、東洋経済新報社、日経新聞、日経BP、インプレス、アスキーメディアワークスなどの各種メディアに執筆。
Twitterアカウントは@rokuzouhonda
近著:ニコニコ的。〈豪華試食版〉―若者に熱狂をもたらすビジネスの方程式(東洋経済新報社)
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