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「これが新しいVAIOです」――ソニーPC事業の失墜と新会社に求められる新たなVAIOブランドの確立本田雅一のエンベデッドコラム(27)(3/4 ページ)

なぜ、ソニーは「VAIO」ブランドを手放すことになったのか――。モノづくり現場を数多く取材してきたジャーナリスト・本田雅一氏が関係者への取材を基に、VAIOの運命を変えた方向転換について掘り下げる。そして、新会社に求められる“新しいVAIOブランド”の方向性を考察する。

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VAIO事業が抱えていた問題とこれから

 さらに中の声に耳を傾けると、出荷ボリュームを追い求めるモノづくりへと舵を切ったことで開発の現場も、その様子が一変したという。前述した2009年以前から現在まで、VAIOの商品を企画・開発するメンバーは大きく変化していない。しかし、組織運営が変われば同じ開発陣でも、出てくる結果は変わってくる。

 例えば、新興国での出荷ボリュームを増やすため、国・地域ごとに、販売量を最大化する仕様をヒアリング。画面サイズやインタフェース仕様など、地域ごとに異なるニーズを満たすよう新製品を開発しなければならなくなった。それまで“深さ”方向に突き詰めていた開発リソースは、“幅広さ”に使われるようになった。

 「より良い製品としての理想を思い描きながら製品の企画・開発を行いたいのに、地域ごとの要望をヒアリングし、できるだけそれを反映。反映できない点に関しては、説明して納得してもらう。開発陣は現地法人のマーケティングの“御用聞き”にならざるを得なかった」という。

 また、海外生産パートナーを台湾のQuanta Computer(クアンタ)へ1本化した影響も少なくない。パートナーを1本化することで1社当たりのボリュームを増やし、調達コストを抑える考えだったと想像されるが、競合がいなくなったことでクアンタの品質管理や納期に問題を抱えるようになったという。さらには、品質管理問題から新製品の発売が遅れ、販売機会を逃すなど、販売成績に直結する問題も起きていたそうだ。

 現在の“平井ソニーの方針”とは真逆の事業運営だが、2012年の社長交代を受けて変化の兆しがあり、2013年は業界で唯一、「Instant Go」に対応したスライドメカ採用の「VAIO Duo 13」や、Intelの第4世代Coreプロセッサ(Haswell)採用ながらタブレットスタイルのボディを持つ「VAIO Tap 11」、斬新なフリップスタイルを持つ「VAIO Fit A」シリーズなどを発売。それぞれ海外でも再注目される製品にはなっていた。

VAIO Duo 13
スライドメカ採用の「VAIO Duo 13」

 筆者はこうした新提案を、ストリンガー/中鉢時代からの変化として捉えていたが、取材を進めてみると、例えば一部のファンに支持されていた“red edition”を、生産しにくいからという理由で1世代だけでやめてしまうなど、ソニーグループ全体の事業方針と、VAIO事業部の方針、それに開発・企画現場の考えが一致しないチグハグな状況がみてとれた。

 ここまで現場と事業部の間のあつれきを生みながらも進めた“ボリュームを追う”事業方針も、実のところ目標の年間1000万台を達成できず、2010年のピーク時も870万台。LenovoやHewlett-Packardなど、出荷数トップクラスのメーカーと比較すると、その規模は6分の1程度。2013年通期は580万台の見込みで、同じく10分の1程度の規模にとどまる。

 また、ボリューム戦略によって失ったものは他にもある。それは業界内での存在感(影響力)だ。Microsoftが「Windows 8」の開発を進めていた当時、ソニーはWindows 8を搭載したタブレット端末の共同開発パートナーに選ばれなかったのだ。こうした機会はPCメーカーにとって最新の開発情報を入手するチャンスであり、こんな事態はかつてのソニーでは考えられない状況といえよう。

 VAIOブランドで“普通のパソコン”を作り始めて5年。ソニー製PCのイメージは様変わりした。新たなことに挑戦しづらい状況が、PC業界を取り巻く市場環境の変化だけでなく、VAIO事業の内側にも定着してしまっていたのかもしれない。

 さて、VAIOブランドのこれからだが、既報の通り、日本産業パートナーズ(JIP)に事業売却する予定だ。かつてIBMが「ThinkPad」をLenovoに売ったときのことを想起する人も少なくないが、LenovoはもともとPCメーカーだ。対して、JIPは投資ファンドであり、モノづくりは、ソニーから新会社に移籍するチームが行っていく。

 VAIO事業部にはソニーの社員だけで約1100人が関わっていたが、そこから150〜200人が新会社に移籍し、ソニーEMCSからの移籍組と合わせて300人体制となる。

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