「日本は“ゴルフコース設計”に参加しないから“池”にはまる」IDEC藤田常務:SCF2013 ラウンドテーブル(後編)(2/2 ページ)
SCF2013のラウンドテーブル「日本のものづくりの未来が見える」では、IDEC 常務執行役員の藤田俊弘氏が「技術を磨くだけでなく、国際的なルールづくりの場に積極的に参加すべきだ」という主張を展開した。
3ポジションスイッチの成功例
逆に規格化に成功したケースが、IEC規格60947-5-8として日本発で国際規格化された3ポジションスイッチだ。一般的な押しボタンスイッチは、押すと「オン」、離すと「オフ」の2ポジションだが、規格化された3ポジションイネーブルスイッチは、離した「オフ」の状態から軽く押すと「オン」、強く押しこむと「オフ」になる。強く押しこんだ状態から離しても「オン」にはならず「オフ」のままであるということが特徴だ。
「産業用機器の場合は、急なトラブルで機械の緊急停止を行わなければならない場面がある。2ポジションスイッチだと、驚いてスイッチを離せなかった場合は作業員に危険が及ぶ可能性がある。3ポジションスイッチでは、驚いてスイッチを離した場合でも、握りこんでしまった場合でも機械を止めることができ、作業員の安全を確保できる」(藤田氏)
3ポジションイネーブルスイッチはIDECが1997年に開発。2003年から国際標準化への提案を開始し2006年に国際規格が発行された。「3ポジションイネーブルスイッチは国際標準化後、グローバルでの販売量を着実に伸ばすことができている。国際標準化で成功した例だ」と藤田氏は語る。
日本は“ゴルフのプレー”ばかり
藤田氏は「日本はスポーツでもルール作りに関与できずに不利なルール変更を受け、勝負の場で負けるようなことが多い。ビジネスの場でも同じようなことが起きている」と指摘する。
「製品づくりをゴルフのプレーだとすると、国際標準づくりはゴルフコース設計だ。そしてバンカーなどが知的財産となる。日本はプレーを磨くことばかりを考えているが、いくらプレーを磨いても、得意なところに池やクリークを置かれたり、バンカーを置かれたりすると、その時点で圧倒的に不利になる」と藤田氏は指摘する。
例えば、日本がドライバーの飛距離220ヤードで持ち球の特徴がスライス(右に曲がる)だったとして、韓国が飛距離250ヤード、持ち球がフック(左に曲がる)だったとする。その場合、コースの設計で右側に池を置かれると日本にとっては池に落ちる可能性が高まり、不利になる。逆に左側に池を置くと、韓国に対しては有利に立つことができる。また同様に220ヤード付近にクリークを作られると日本にとっては不利だが、250ヤード付近にクリークを作ると、韓国はフルスイングができなくなる。「国際標準化の舞台はそういう勝負の場だ」と藤田氏は強調する。
「まずはそういうコース設計に参加し、自分が有利に相手が不利になるような形に持っていかなければならない。その場所に参加できれば、相手が打ち込みそうな場所にバンカーを置き、知的財産で勝つ、というような戦略を練ることができる」と藤田氏は語る。
さらにこの考え方はオープン・クローズ戦略にも関わると藤田氏は指摘する。「国際標準化を進めると自社独自の優位性はなくなる。オープン化しても問題ないコア領域以外でどう“コース設計”に関われるようにし、クローズ化するコア領域でどう“バンカー”を配置するか、ということが重要だ」と藤田氏は話している。
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